2022年11月に、惜しまれつつ約7年間の連載が終了した『あそびあそばせ』。その基本コンセプトは、「美少女3人のちょっぴり笑えるお遊戯コメディ」。なんじゃそりゃ? と思われるかもしれませんが、読んでみれば、そのまんまだとわかります(苦笑)。異色すぎる作風は、クセになること間違いなし!?
ゾンビや戦慄系映画にも負けない美少女の“顔芸”!?
キーワードが“美少女”で、平仮名ばかりが並ぶタイトルの作品に、どのようなイメージを抱かれるでしょうか。何か柔らかい印象で、のほほんと平和な、まったりとゆる~い作風を思い浮かべるのでは?
本作もまた、コミックスの表紙を並べてみれば「そちら系」の作風が伺い知れるわけで……。
でも、実はそれ、“表紙詐欺”なのです。非公認の同好会、“あそ研”こと「遊び人研究会」を結成した中学2年生の同級生ヒロイン3人は、確かに美少女揃い。作者の高い画力が発揮されたキャラクター造詣は、膨らむイメージと期待を裏切りません。
が、読み始めた次の瞬間、彼女たちはゾンビか妖怪か、あるいは『犬神家の一族』(横溝正史)の佐清(すけきよ)や『八つ墓村』(横溝正史)の要蔵を彷彿させる、鬼神めいた容姿に変貌します。美少女風にアレンジされた佐清のゴムマスクが歪み、崩壊した顔を想像できるでしょうか。まさに“顔芸”といえる表情のオンパレードが、読み手を圧倒するのです(怖)。
元が美少女だけに、変貌後のギャップが余計に……。良くも悪くも作者の高い画力が生み出す技=遊びに、読む側はなす術もなく翻弄されてしまいます。
その快感(?)に耐えられなければ、物語を読み進めることはできません。逆に耐えられたなら、腹筋を叩きまくる顔芸+お下劣ギャグの連発に酔いしれる……はず。(望むと望まないにかかわらず)
高い画力などが「無駄に」満ちあふれた美学
本作は、良くも悪くも“無駄”に満ちあふれた作品なのです。“女子無駄”こと『女子高生の無駄づかい』(ビーノ/KADOKAWA)とも、相通じる面が……と感じられた方は、より過激な本作への耐性もありそうな?
高い画力。ブロンド・黒髪どちらもOKな美少女。一部のシチュエーションにだけ、細部までこだわった描写。やたら熱量を帯びた、突拍子もない展開と結末。これらの冠に、「無駄に」という言葉を付加してみると、すべてがまるっと収まるわけで。
とにかく「無駄に」〇〇な、いろいろな意味でギャップだらけの作品が、この『あそびあそばせ』。
そこには、読み手に迎合したり、物語を進める上で都合よくキャラを動かしたり、立てまくったフラグをあえて回収しなかったり……などなど、長期連載作にありがちな手法は見受けられません。かなり潔い作風!?
むしろ、「ついてきたければ勝手にどーぞ」的な突き放した感が、絶えず漂う作風だとも。そのシュールさにほくそ笑むことができるかどうかで、作品評価も大きく分かれそう。涼川りん作品らしい味かもしれませんが、担当編集者はどれだけ胃を痛めたのだろう……などと心配してしまいます(苦笑)。
恥ずかし毒性が強すぎる青春物語
もちろん、それだけだと単に自己主張が強い毒舌ギャグ漫画ですが、そこに生きてくるのが、登場人物たちの巧みなキャラ設定。
文武優秀な努力家で、大金持ちのお嬢様ながら、常軌を逸した思考回路・言動・行動&顔芸(笑)で異次元のスクールライフを送る主人公・華子。
両親が外国人で金髪碧眼の美少女ながら、日本生まれの日本育ちで英語が喋れないことを隠し、“ガイジン”を演じ続けるWヒロイン・オリヴィア。
真面目で礼儀正しく物静か、休み時間は読書にふける眼鏡少女ながら、ときに超暴力的なキャラへと変貌し、実はBL好きでもある香純。
ひと癖もふた癖もありすぎる“あそ研”3人組が織りなすドラマは、実はごくフツーの悩み多き女子中学生が抱える、ちょっと恥ずかしい青春物語だったりも。そこがまたクスッと笑えるので、どうにも憎めない。この絶妙なバランス感が狙い通りだとすれば、作者は相当な策士でしょう(苦笑)。
読み始めた当初は違和感を抱くかもしれませんが、コミックスを1~2巻ほど読み終えた頃には、さまざまな形で見え隠れする各キャラの内面に気づき、物語の深みを感じられるようになるはず。
ただ、あまりに絶妙(=微妙)すぎるバランスで成り立つ作風だけに、物語中盤以降は、何かと迷走気味な面も見受けられ……。まずは夢中になれるだろう中盤までを、数巻ずつ楽しまれることをお勧めします。一気に(大量に)読み続けると中毒を起こしかねないほど癖が強い作風なので、ご安全に~。