『グリマス』―マンションの支配者が課す不思議なルールに翻弄される住人たち。不気味な笑顔に隠されたオーナーの真実とは、謎が謎を呼ぶ奇妙な物語

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『グリマス』(活又ひろき/講談社)
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日本には、「笑う門には福来る」ということわざがある。

「笑いが絶えない家には自然と幸福が訪れる」ことを意味する。争いを避けるため、印象を良くするため、気分を上げるため、とりあえず笑っていようと考える人も多いのではないだろうか。争いを好まず、他者の顔色を窺いながら生きる我々にとって、笑顔でいることはとても重要だ。

これまで、学校や職場で笑顔を強要された経験がある人もいるだろう。だが、無理に作った笑みや顔に貼り付けただけの作り笑いに何の意味があるのだろう。内面から表情に出る本当の笑顔こそ、その効果を発揮する。

『グリマス』という、大変興味深い漫画がある。謎が謎を呼ぶクリーピー(奇妙)な物語。“オーナーの前では必ず笑顔でいなければならない”というルールのあるマンションで暮らす人々を描いた、サイコホラー作品である。

笑顔は幸せをもたらすのか、生活する上で笑顔は役立つのか。笑顔を強制され続ける人々の激しい心理描写にご注目あれ。

城谷家(夫・光司、妻・純、娘・真奈、息子・結人)は、純の友人の紹介により、高宮サニーマンションに越してきた。

そのマンションには、いつどんな時でもオーナーの前では笑顔でいなければならないというルールがあることを知る。

初めこそルールに抗おうとする一家であったが、次々と人智を超えた予想外な出来事が起こり、命を守るため不本意ながらオーナーに従うようになる。果たして、一家を待つ未来とは――。

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謎が謎のまま進む臨場感に満ちた展開。支配者の正体とは

明らかなのはルールのみ。なぜ笑顔でいなければならないのか、ルールを破るとどうなるのか、その全容は謎に包まれている。

状況によりそのルールの強制性を理解することになるが、オーナーも住人たちも詳細は何も教えてくれない。物語は核心をつくことなくスピーディーに進み、謎多きまま住民たちが不可解な死を遂げてゆく。

読者を魅了する考えられた構成や展開もさることながら、笑顔の描写は特筆して秀逸である。人々が無理矢理笑顔を作っているのは明らかであるし、線画の揺れと激しさが内面の葛藤を如実に示している。作画は力強く、不安定な線画と内面の葛藤を描く躍動感溢れる描写が登場人物の心理を巧みに表している。モノローグや言語化された息遣いもよく効いていて、緊張感と臨場感が感じられる。時折城谷家の過去を思わせる描写があるのも今後の期待度を高めてくれている。

オーナーは不可思議な能力を有していて、住民の生死をたやすく握っている。

城谷家の人々は詳細な説明もないまま、オーナーの圧倒的な力を目の当たりにし、なすすべもなくおかしなルールに従ってしまう。

安らぎの場であるはずの家で、常に気を張っていなければならないのは困難だ。ルールだけを聞けば従うのは簡単にも思えるが、オーナーに特殊能力があるならば話は別だ。オーナーは力で住人を支配し、支配力を持つ。そこに格差が生まれ、住人の平等性は失われる。本作の面白さはそこにある。

支配者がいることで簡単に均衡は崩れ、たちまち人間の醜さが露見する。自分と家族だけはという思いから住民は支配者に取り入ろうとし、周囲の監視を自らの意思で始める。住人同士で結束することなく、我先に優遇されようと行動を開始するのである。これこそ人間の本能であり、悲しき宿命だ。何故共通の敵に一致団結し、立ち向かえないのか。誰もが自分や家族が一番可愛いのかもしれない。

与えられた役によって人格が変わりゆく様を示した心理学の実験“スタンフォード監獄実験”を思い出す。優遇された人々はオーナーの力を自分のものに感じるようになり、被支配者に屈辱的な指示を与えるようになる。そうした“取り巻き”の登場により、いつどんな時も笑顔でいることはますます困難なものになってゆく。

本作を読むと、人間の物悲しさや理不尽に対する虚無感がよく分かる。こうはなりたくないと思っても、同じ状況に立たされれば我々もすぐ高宮サニーマンションの一員に溶け込んでしまうだろう。

私たちは同じ人間、等しく尊い命である。

本当の意味でそれを理解し、受け入れ、協力しない限り、わずかでも力を持った権力者に立ち向かえないのかもしれない。

本作には、支配力と権力を持った人間の恐ろしさ、その構図がよく描かれている。まだまだ謎が多く、オーナーの発言にもさまざまなヒントが隠されている。オーナーの持つ特殊能力とは、笑顔にこだわる理由とは。今後の展開、明かされるであろう謎から目が離せない。

目をつけておきたい成長株、展開次第でいかようにも面白くなる 

『グリマス』は、活又ひろき氏による、特殊なルールを設けられたマンションで暮らす城谷家を描いたサスペンスホラー漫画である。講談社によるWebサービス「ヤンマガWeb」にて2023年1月より連載開始。ウェブ上で気軽に読めるので、おすすめだ。

ストーリー先行型で、これからに期待大な作品。オーナーは正体不明で年齢不詳。過去も現在も分からない。特徴的な見た目だけが印象的だ。

ただ翻弄されるだけの住人を見ていると多少不快感もあるが、この先人智を超えた能力を持つ人間が現れれば、社会はこうなるのかもしれない。

オーナーに触れる今後の展開を楽しみに待ちたい。それ次第で本作はさらに奥深く、ユニークな作品となるだろう。筆者ごとではあるが、久々に次巻が楽しみな一作である。

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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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