『わたしたちは無痛恋愛がしたい〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』――デジタルネイティブの人生観・恋愛観を紐解く、心理描写に長けたエッセイ風ヒューマンドラマ

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わたしたちは無痛恋愛がしたい
『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~』(瀧波ユカリ/講談社)
目次

サクッと気軽に読めて勉強になるエッセイ風漫画

活字でエッセイを読むのは苦手だが、SNS世代の女性の頭の中は覗いてみたい、というわがままな人におすすめの漫画がある。

若い女性のリアルな生き様を描いた『わたしたちは無痛恋愛がしたい〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』。

絵と文字の量のバランスが良く、一般的な漫画に見られる凝ったコマ割りや画力はないが、説明くささがないので活字ほどの煩わしさがない。気軽にサクッと読めて、学べる点が多いところが素晴らしい。

主人公の会社員・星置みなみは、人に言えない本音を鍵垢(鍵をかけたSNS)に書き込んでいる。友人の栗山由仁と語らい、星屑と名付けた顔の良いクズ・恵比島千歳に都合よく扱われながら日々を過ごしていた。

みなみと由仁が目指すのは、痛みを伴わない「無痛恋愛」。

変わりのない毎日の中、みなみは他に類を見ない“フェミおじさん”・月寒空知に出会う。これから、みなみの毎日はどう変わるのか—――。

SNS世代のリアルが赤裸々に描かれた等身大のストーリー

本作の魅力は、何といっても今時の若者のリアルな心理描写である。若者は深く共感できるだろうし、壮年以上は若者の心のうちを知ることができる。みなみの生活にはSNSが欠かせない。若者のほとんどがデジタルネイティブであり、それらに対する抵抗もない。

SNSに疎い筆者にとって共感性は低いが、若者がどんな考え方をするのか理解することができた。投稿されたSNSの画面が効果的に挿入されていて、流れが途切れることなく、巧みな心理描写とともに物語がスムーズに進む。

特に、みなみの恋愛観は興味深い。みなみと千歳の関係性に触れ、ふとロックバンド・Saucy Dogの楽曲『シンデレラボーイ』を思い出した。他にも、現代ドラマや映画に思い当たる作品がある。恋愛観は時代とともに変わり、ダイバーシティ(多様性)が叫ばれる今、さらに多彩になっている。これぞ、現代を生きる女性の等身大の恋愛の形なのだろう。リアルな関係が希薄になりつつある現代では、馬鹿げていると分かっていても虚しさを埋めずにはいられないのかもしれない。

シンプルながら考えられた構成で、セリフやモノローグが多めでも読書感はない。描き込まれた画ではないが、登場人物たちは見た目にもそれぞれの個性が滲み出ていてすんなり物語に入り込むことができる。

本作のテーマに「フェミニズム」「フェミニスト」がある。

フェミニストとは、男女平等、多様性を志向する人を指す。話題のフェミニストは、具体的にはどんな考え方をするのか理解できるので大変面白い。

フェミニストは時に過敏になりすぎるきらいがあるから、少し繊細で生きづらさを感じているのかもしれない。正直、筆者としてはみなみや由仁のフェミニズム的な考え方自体が女性的(女性主観)にも感じるのだが、本作を読んで「全て理解できる」という男性がいれば、それこそ“ダイバーシティを極めし者”なのかもしれない。

全ての人間は平等であるべきだ。それに揺るぎはない。とはいえ、男性と女性とでは根本的に構造が異なる。身体的にも心理的にも同じ形にならない限り、真の平等を実感するのは難しいように思う。

この先社会がどう変わろうと、大切なのはお互いを理解すること。理解しようと努力すること。人間関係の構築において最重要なその事実だけは、今までもこれからも変わらないだろう。

今時の若者、フェミニストの思考に触れる、ためになる良作

『わたしたちは無痛恋愛がしたい 〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』は、瀧波ユカリ氏による、SNS世代の若者たちのリアルな人生観・恋愛観を描いたヒューマンドラマ漫画である。

講談社の青年漫画雑誌「アフタヌーン」編集部によるWEB漫画サイト「&Sofa」にて2021年より連載中、既刊3巻。

若者にとっては当たり前の“鍵垢女子”を描いていることもあり、SNSで度々話題に上がっていた本作。第2巻で、みなみが一夜を共にした男性の「同じだけ楽しんだからワリカン」という言葉に納得できない理由を説くシーンがあるが、このシーンだけ見たことがある人も多いのではないだろうか。

大変印象深く「相当なフェミニズム作品なのでは」と思いがちだが、それだけではなく、SNS世代の等身大が描かれているので、男性も女性も身構えることなく読んでみてほしい。フェミニズム、ひいてはダイバーシティについて考える・理解するきっかけになるかもしれない。

私たちはまだ本当の平等を知らない。だからこそ、理解すべきだ。

フェミニズムという新しい考え方を頭ごなしに否定せず、相入れない部分はお互いに言葉にして話し合えばいい。相互理解の先にこそ、本当の男女平等、多様性がある。話のきっかけにもピッタリな本作。本作を手に、まずは知ることから始めてみよう。

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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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