『ブスなんて言わないで』−−−ルッキズム問題を正しく理解し、自分ごととして向き合うのに相応しい一冊。本作に触れ、あなたは何を思うか?

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『ブスなんて言わないで』(とあるアラ子/講談社)
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話題のルッキズムについて理解を深めるきっかけになる佳作

時代は日々変化する。ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)やルッキズムなる言葉も広く知られるようになった。人種や国籍、性別、容姿などあらゆるものを超えた平等が求められている。同じ国で、同じ社会情勢下で、同じ顔で生まれ、同じ環境で育たない限り、真の平等が実現されることはないだろう。

生まれながらに我々は異なり、金子みすゞ氏の詩の一節の通り「みんなちがって、みんないい」。各々の違いを認め、受け容れることが必要だ。

急激に平等が叫ばれるようになった現代、言葉ばかりが先行して内容が伴わないことを多く感じる。まずは正しく理解すること、言葉に縛られないこと。ルッキズムに抗う女性たちの日常を描いた『ブスなんて言わないで』を読めば、ルッキズムとは何かが分かってくるかもしれない。

高校時代にブスであることを理由に虐められていた主人公・山井知子は、イジメの主犯だと考えていた同級生・白根梨花が美容研究家として成功していることを知る。反ルッキズムの活動家としても知られており、許せないと感じた山井は白根の殺害を決意し、彼女のオフィスへ押しかける。

すったもんだの末、山井は白根の会社で働くことになり、彼女と働く中で、白根やルッキズム問題と向き合っていく。

著:とあるアラ子
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ルッキズムとは何か、どうすればルッキズムを消失できるのか

単純なコマ割りと力強い線で描かれた特徴的な作画で大変読みやすい。好き嫌いあるかもしれないが、ルッキズムを扱っているだけにキャラクターの描き分けは素晴らしい。シンプルながら鬼気迫る表情描写は秀逸で、揺れる心の動きが手に取るように分かる。内容の割に読み物感は少ないので、気軽な気持ちでサクッと読めてしまうのも良い。

本作には美人、平均、ブスとさまざまな容姿のキャラクターが登場する。興味深いのは、それぞれの悩みに接した時、自分に近い容姿のキャラクターにしか共感できないように思うこと。他者を理解することの難しさが実感できる。

主人公は当たり前にブスとして描かれているが、彼女の「ブス」というカテゴライズはいつから始まったのだろう。「優等生」「厨二病」「面白い」など多くの容姿によらないカテゴリーがある中で、なぜ「ブス」になってしまったのか。容姿以上に印象に残る何かがあれば、「ブス」という言葉の呪縛に囚われることはなかったのではなかろうか。他ならぬ自分自身が「ブス」とカテゴライズしてしまったことが全ての始まりな気がしてならない。

登場人物の抱えるさまざまな悩みに触れ、多くのことを考えさせられる。幸せそうに見える人でも心には悩みを抱えているかもしれないし、その悩みも他人には理解できないものかもしれない。ルッキズムに囚われずに生きていくには、まず自分自身を認め、他者を認め、受け容れること。大切なのは寛容さである。表面上は平等に見えるようになるかもしれないが、実際ルッキズムがなくなることはないだろう。ネットニュースには“可愛い”、“美人すぎる”、“イケメン”などの言葉が溢れているし、人の内面が可視化されることはないからだ。社会を変えるためにも、まずは自分自身が変わらないといけない。

本作を読むことで、共感・非共感から自分が潜在的に抱えている差別意識などが分かるかもしれない。また、異なる容姿の人が実はこう考えているかもしれない、と教えてくれる。考えるきっかけをくれる良作なので、一度読んで自分はルッキズムをどう捉えているか考えてみてほしい。

人の数だけ異なる考えがあるルッキズム問題と改めて向き合う

『ブスなんて言わないで』は、とあるアラ子氏による、ルッキズムと戦う女性たちを描いたヒューマンドラマ漫画である。講談社の青年漫画雑誌「アフタヌーン」編集部によるWeb漫画サイト「&Sofa」にて2021年より連載中、既刊3巻。

話題のルッキズムをテーマにした挑戦的な作品。人々が容姿についてどう考え、どんな悩みを抱えているのかがよく分かる。コンプレックスを抱えている人もいることから、日常会話で容姿を話題に上げることはなかなか難しい。本作をきっかけに、感想を言い合う体で周囲の人々が何を考えているか知っておくのも面白い。容姿を気にする人ほど、周りの人間は案外その人に注目していないものだ。自ら容姿のカテゴライズ化に抗ってみるのも良い。

筆者としては、物事の全てにルッキズムを絡めるのには反対だ。

本作の中でシャンプー広告に対する疑問(なぜモデルが黒髪ロングの人ばかりなのか)が呈されているが、商品を宣伝したいメーカーとしては当然の選択であるように思う。日本人のほとんどは直毛であるし、シャンプーの効果が視覚的にも分かりやすいからだ。筆者は直毛ではないが、購買層から除外されていると感じたことはない。人々が潜在的な差別意識を抱えているのではないかと問題提起するのは素敵なことだが、全てが差別的な意識から生まれたものではなく、多彩な観点から選び出された最善であるかもしれないことを考えるべきだろう。人の数だけ考え方があり、ある物事に対して何を思うかも自由だ。だからこそ私たちが各々ルッキズム問題に向き合い、考える必要がある。

最後に、容姿で悩む人々に伝えたいことがある。筆者の顔には交通事故による消えない瘢痕がある。長く醜いものなので外科手術も考えた程だが、事故から数年経って瘢痕のない自分の顔を思い出せなくなった時、これが自分の顔だと納得した。何より大切なのは、自分自身が受け容れることだろう。自分の容姿を受け容れた上で、気になる人は手術を受ければ良いし、整形級メイクにチャレンジしてみるのも良いし、世間に抗ってみるのも良い。周囲の言葉ばかりを拾って、自分まで自分の敵になってはいけない。筆者が顔の傷に悩んでいた時、当時パンクファッションを好んでいたこともあり先輩に「これぞリアルパンクやん」と慰められて笑ってしまった。鏡に映る傷を見て「醜い」と思う人ばかりではないということだ。あなたが自分を受け容れ、味方であれば、周囲からの言葉の捉え方も変わるはずだ。カテゴライズはあなた次第。

反ルッキズム運動が正しく広まり、容姿に左右されない生きやすい社会になることを願って。

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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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