ただのラブコメと侮るなかれ!陰キャ少年×陽キャ美少女に尊さあふれる“ヤバイやつ”『僕の心のヤバイやつ』

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僕の心のヤバイやつ
『僕の心のヤバイやつ』桜井のりお/秋田書店

“恋は、女の子を、こどもにしてしまうのだなぁ……そして……恋は男の子を、地下組織にしてしまうの、かなぁ……へんなのっ”

――桜庭一樹『荒野』

『僕ヤバ』こと『僕の心のヤバイやつ』が話題だ。

秋田書店が運営するWebマンガサービス「マンガクロス」にて、似ていない三つ子姉妹のドタバタコメディ『みつどもえ』で知られる桜井のりおが連載中の、“陰キャ少年と陽キャ美少女の極甘青春ラブコメディ”である。

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ネットで噂の“ヤバイやつ”

「このマンガがすごい!」では2020年版(発表は2019年)のオトコ編で第3位、「次にくるマンガ大賞」では2020版のWebマンガ部門で第1位と、ここ最近のマンガ賞でくまなく上位に顔を出してくる社会的評価にもその人気は十二分に表れているが、特筆すべきはTwitterを中心とするネットでのリアルタイムの盛り上がりだろう。

「マンガクロス」では2020年10月現在、隔週火曜日に最新話が掲載されているが、いまや更新のたびにTwitterのトレンドに名を連ねることがお馴染みの光景となった。そのたびに読者の心をざわつかせ、揺さぶり、かき乱し、撃ちぬいていくのだ。

毎話、期待どおりにニヤニヤを喚起してくれるそのテクニシャンぶりは、読者にとっても“ヤバイやつ”なのである。

著:桜井のりお
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“殺したい”女、そして乱される心

物語の入り口はこういった具合だ。手にした『殺人大百科』、そしてその目付きに察する読者は察してしまう中二病真っ盛りの“陰キャ”市川京太郎は、「僕は頭がおかしい」と独白する。彼は、自分のような底辺を見下している(と思い込んでいる)、学校イチの美人で雑誌のモデルをしているらしいクラスメイトの“陽キャ”山田杏奈を、「今最も殺したい女」として観察しているのだ。

そんなある日の昼休み、いつものように図書室(図書室は陰キャの心のオアシスである)に足を運んだ市川は山田と遭遇する。なぜかそこに居た彼女は、教室で市川と目が合った際の顔とは正反対の賑やかさでおにぎりやお菓子を頬張ったあと、不器用な手つきで研究発表の資料作りに励みはじめた。

流れで彼女と一言二言交わしたうえ、思わず資料作りのアシストまでしてしまった市川は、食べかけのポテトチップスの袋を渡されると、頬を染めながら激しく動揺する。山田にとっては、ごみ捨てを頼んだだけに過ぎないようだけれども……

「距離」「変化」「気付き」の先にあるものとは

『ダ・ヴィンチ』2020年10月号に掲載された著者インタビューによると、山田は「“推し”の集合体」、市川は「自分の分身」とのこと。

ジャンルとしては間違いなくラブコメなのだが、神の目線(……のはずが、実際には読み進めるうちに「保護者目線」になってしまいがち)の読者に市川の心の内を垣間見せ、彼が気付いたり、気付かなかったりする山田とのアレコレに一喜一憂させる“魅せ方”には、もどかしくも心ときめく青春のコミュニケーションを夢見させ、思い起こさせ、幻視させ、追体験させてくれる独自の魅力がある。

「ラブコメ」という言葉だけで括ってしまうのをもったいなく感じる、その甘酸っぱくムズムズとさせるような初恋の過程を描く妙は、著者が第1巻のあとがきに記した「『距離』『変化』『気付き』を丁寧に描いていきたい」というところなのだろう。

著者は上記の『ダ・ヴィンチ』でも、「まったく接点がなかった二人が、どうやって近づき、関係性を変えていくか」という「コミュニケーション」と「成長」が、ラブコメとともに主題にあることを述べている。

『みつどもえ』からのファンとしては、桜井のりおといえばまず「下ネタもふんだんに交えるギャグの思い切りとテンポの良さ」に紐付けがちだったのだが、本作のこのあたりの特色はその認識をアップデートする契機となった(メインキャラだけでなく、サブキャラの一挙手一投足にも注目したくなる魅力的な人物設定については、言うまでもなく健在だと書き添えておく)。

本作から目を離せなくなる一番のトリガーはやはり、第1巻の終盤に訪れるとある事件を経た市川の「気付き」だろうか。彼にとっては、その瞬間が“ターニングポイント”となったのは目に見えて明らかなのだが、一方で山田の“ターニングポイント”がはっきりそれだと示されていないのが、本作の悩ましくも面白いところとなる。

著者もこれについて、上記の『ダ・ヴィンチ』で「誰かを『好き』だと認識するのはけっこう難しくて、なかなか自覚できない」と言及している。「私の中ではここだというのがありますが、人を好きになるタイミングというのはそれぞれ違うと思う」と語るあたり、「恋愛には“正しい答え”はない」ということなのだろう。

市川と山田はいかなる答えを見せてくれるのか、その恋路はますます盛り上がるばかりだ。

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出演:羊宮妃那, 朝井彩加, 潘 めぐみ, 種﨑敦美, 岡本信彦, 佐藤 元, 福島 潤, 豊崎愛生, 田村ゆかり, 島﨑信長
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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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