『シドニアの騎士』ーーあなたの恋愛観はアップデート出来ていますか?日本で最も進んだ恋愛漫画はこれ!

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シドニアの騎士
『シドニアの騎士』弐瓶勉/講談社
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巨大ロボットもの? スペースオペラ? いえ、恋愛漫画です!

世界的に評価の高いSF漫画家・弐瓶勉。背景にまで個性を出すためにアシスタントを利用せず、その結果として生み出された独特の世界がワールドワイドに評価されている漫画家だ。個性的な絵柄や、作品世界の説明をほとんど行わないため、漫画としては好みが分かれる作風ではある。が、そんな彼の作品としては珍しく、非常に読みやすくしっかりと世界観の説明もなされていたため、アニメ化もされるほどの大ヒットとなったのが、本作『シドニアの騎士」である。

約1000年前、突如太陽系に現れた奇居子(ガウナ)と呼ばれる巨大生命体群により、太陽系は滅ぼされた。なんとか地球を脱出した人類は、播種船(はしゅせん)と呼ばれる全長約28kmにも及ぶ巨大な宇宙船の中で、生産と繁殖を繰り返しながら、奇居子から逃れ新天地となる惑星を探している。

その中の一隻であるシドニアで、不正登録船員として誕生し、祖父とともに隠れて暮らしている谷風長道(たにかぜながて)が本作の主人公。祖父の死後、食料が尽きた長道は、一般船員区画で米泥棒を行い捕まってしまう。戸籍も何もない彼の身元引受人となったのは、シドニアの艦長である小林。長道は小林から、シドニアを守るロボット兵器・衛人(もりと)のパイロットになって欲しいと頼まれる……

本作は、シドニアという巨大な都市を内包する宇宙船での人びとの生活や、巨大宇宙船の運用方法、衛人の戦闘描写など、絢爛豪華なSF要素が最大の魅力とされている。……だが、筆者は一番の魅力はそこではないと断言したい。本作の魅力は、極限まで追い詰められた人類がたどり着いた、究極の恋愛観なのだ!

著:弐瓶勉
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性別も種族も超越した人類の繰り広げる恋愛模様

シドニアで暮らす人類は、1000年にも及ぶ放浪のなかで物資の窮乏を乗り越えるべく、自分たちの肉体を人為的に進化させるという手段に出ている。その最たるものが光合成である。シドニアで生まれた人類は、少ない食料で生活できるように、光合成を行うことができるように肉体を改良されている。不正登録船員である長道のみが、光合成適合手術を受けていないため毎日の食事を必要とし、その結果、体臭がするという設定だ。光合成は効率よく行う必要があるため、専用の部屋で裸になって行うのが一般的。その結果、作中内では性欲と食欲が結びついており、たびたび好きになった相手を光合成にさそうという描写が描かれている。食事を必要とする長道に対しては、光合成を誘うことができないため、登場するヒロインたちは積極的に長道に食事の差し入れを行うことで愛情を表現する。

また、効率よく子孫を増やすために、シドニアでは男でも女でもない中性という性別が作られている。中性は好きになったパートナーに合わせ、最終的な性成熟を迎えるということになっており、主人公の最初の理解者でヒロインのひとりであるイザナはがこれに当たる。中性は、最後の手段として単性生殖も可能だ。どうやら性別の乗り換えもかなり簡単に行えるようで、物語の最終話で意外な人物が性別を変えていて驚いた読者も多かっただろう。

とまあこのように、性別や生殖という価値観が、作中世界では今我々が生きている世界とあまりに異なる。そのため、本作内ではいわゆるジェンダーギャップという概念がきわめて希薄になっている(一部登場人物のなかには、保守的な思想の人間もいることにはいるが)。だが、偶然なのか狙ってか、そのことによって本作で描かれる恋愛模様は、肉体を超えたより純粋な、精神的な愛の物語となっているのである。

なんといったって、本作のメインヒロインとなる「白羽衣 つむぎ(しらうい つむぎ)」は、全長15mにもおよぶ、触手の怪物なのだ。つむぎは、奇居子(ガウナ)が人間を模して作った人型の生物(戦死した、長道の憧れの女性)の子宮に、人工の精子を着床させることでつくられた兵器である。人間と同じように感情をもつが、そのあまりにも特異な外見から最初は、周囲との軋轢を生んでいた。しかし、光合成も行えず体臭もある、シドニアにおいては人間でない長道は、つむぎに理解を示し、やがて身長差15mの恋愛関係が始まっていく。

ぶっちゃけ、本作がロボットものである意味は、宇宙空間でつむぎと長道が操縦するロボットが手をつなぐというその演出一点のためにあったといっても過言ではない! ピュアで他者の入る余地のないふたりのういういしい恋愛描写のおかげで、読んでいるとつむぎの外見のことなど忘れ、ひとりの女の子に見えてくるから不思議だ。ジェンダーフリーな社会というのは本来こうあるべきなのだろうなと感動すら覚える。本作を歪んだ性欲の発露のように見てしまう人もいるかもしれない。だが、世界が目指している全ての人を受け入れる社会というのは、こういう形であってほしいと私は願っている。

2021年には、この長道とつむぎのラブロマンスにスポットを当てた完全オリジナルの劇場版も公開予定である。今のうちに復習もかねて、是非本作を一気読みしていただきたい。

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この記事を書いた人

フリーの編集者。雑誌・Webを問わずさまざまな媒体にて編集・執筆を行っている。執筆の得意ジャンルはエンタメと歴史のため、無意識に長期連載になりがちな漫画にばかりはまってしまう。最近の悩みは、集めている漫画がほぼほぼ完結を諦めたような作品ばかりになってきたこと。

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