女子高生の殺し屋たちが暗躍するガンバトルアクション『デストロ246』は、大ヒット作『ヨルムンガンド』に続く高橋慶太郎の連載作品(小学館「月刊サンデージェネックス」)。前作以上に作者の嗜好性が色濃く反映された作風は、高橋慶太郎の代表作といっても過言ではない?
高橋慶太郎の欲望と嗜好性が暴発した代表作!?
前作『ヨルムンガンド』では、美女の武器商人を主人公に、世界各地の戦場を舞台にダークな裏&闇取引世界が描かれました。その世界観は癖が強かった反面、アニメもヒットしたように、コアな層から確固たる支持を得てきました。
ときに“平和ボケ”とも揶揄される現代日本において、現実と非現実の狭間をリアルに描き出す世界観嗜好は、もはや既定路線なのかもしれません。その中で個性を発揮する高橋慶太郎作品らしさが『ヨルムンガンド』以上に濃厚で、嫌というほど詰め込まれた物語こそ、『デストロ246』といえそうです。
そもそも『ヨルムンガンド』連載当時から「可愛い女の子を描きたいのに、おっさんばかり描いて辛かった」などと語っていた作者だけに、登場する殺し屋たちが全員女子高生で、揃って美少女ばかりな本作は、作者の溜まりまくった欲求と嗜好性が暴発した作品だとも?
作画や作風に見られる作者特有の粗削りさや、時に押しつけがましくさえ感じられるセックスアピールなど、その様はまさに“暴走”(苦笑)。その分、グイグイと引き込まれる強迫観念めいた魅力も、『ヨルムンガンド』を上回ります。世間で問題作扱いされた『ヨルムンガンド』が、清く正しく美しい作品と思えてしまうほどに……。
女子高生の殺し屋たちが街の空気を変えていく
本作『デストロ246』は、主人公らしい主人公が見当たらない点でも、稀有な例かもしれません。
南米の貧国で最底辺生活から生き残るため、殺し屋に育てられた17歳の美少女、藍と翠。
薬物密売ルートの元締めで、横浜の暴力団組長でもある苺。彼女の護衛役兼(同性愛)セックスフレンドでもある戦闘狂、蓮華と南天。
「文部省教育施設特査」との肩書を持つ殺し屋で、洗脳や後遺症の影響なのか、謎の頭痛と精神障害を抱える伊万里。
互いをライバル視し、敵対しつつも、同じ匂いや同族意識を感じ、なぜか惹かれあっていく6人。表向きは女子高生な彼女たちだけに、登場シーンの大半は制服姿で、スカートの下に絶えず銃など複数の武器を隠し持ち……。
といった基本設定&世界観だけでも、一般的には違和感がありまくりかと。
が、彼女たちが暗躍する東京・新宿という街の空気は、その姿さえ日常の光景に埋没させてしまいます。いや、彼女たちから発せられる異様な殺気が、周囲の空気感を変えてしまうのかもしれません。
何にせよ、街を歩いていてすれ違った女子高生が、殺し屋だったら……。そんな“あり得ない”日々が、実は当たり前に起きているとしたら……。
本作を読み始めると、ちょっとだけ街の光景を見る目が変わるかもしれません。街を歩く際には周囲への目配りも欠かせず、目つきが悪くなりそう!?
世界観の原点は名作ドラマ『あぶない刑事』!?
藍&翠が南米ギャングのメイドとして登場する様や、ヤクザ女子高生の“殺し”稼業といった世界観から、同じ小学館「サンデージェネックス」連載作の『BLACK LAGOON』(広江礼威)を彷彿させる一面も。確かに、同作のキャラクターは強烈な個性を放っていましたから。
が、本作の登場人物たちは、そこまでの個性を感じさせません。むしろ、敢えて主要キャラの個性を一蓮托生の同族意識に包むことで、作品全体のストーリー性を高めているような。そのあたりの狙いは定かでないものの、いろいろ考察させてくれる作品なことは確かです。
ちなみに、主役の一人・伊万里は、作者のデビュー作『Ordinary±』(講談社)でも主人公だったキャラ。その設定は、学園生徒や関係者の非合法行為を銃で“消去”する任務につく女子高生。彼女が通う超巨大複合学園や生い立ち、背景なども、そのまま本作に引き継がれています。
本作を『Ordinary±』の続編的スピンオフと考えれば、欧米を舞台にするガンアクションドラマが多い中、日本の大都会・新宿や横浜が拠点となる世界観にも納得でしょう。
作者は自身の原点に、ドラマ『あぶない刑事』(日本テレビ)の影響があるとも語っています。確かに、同作の主人公・タカ&ユージを女子高生たちに置き換え、個性的な街並みで展開する銃撃戦に血みどろの殺戮バトルを加味すれば、『デストロ246』の世界観が出来上がるとも。
本作の連載は2016年で終了しましたが、物語中盤から登場する“首都圏最高クラスの殺し屋”沙紀の女子高生時代を描く、前日譚的な『デストロ016』が「サンデージェネックス」にて連載中です。実は『デストロ246』物語のキーパーソンだったキャラだけに、こちらも濃厚な世界観が展開しますよ。
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