考察好きにおすすめしたい『クジャクのダンス、誰が見た?』――ドラマ&映画化もされた『イチケイのカラス』作者が織りなす、どこまでも伏線に見える思慮深い展開が魅力の本格派

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『クジャクのダンス、誰が見た?』(浅見理都/講談社)
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“考察”は好きですか?

ドラマに映画、アニメ、マンガとジャンルを問わず、物語を楽しむうえで昔から親しまれてきたのが、作品の中に登場する謎を推理・考察するという行為。近年では『あなたの番です』『真犯人フラグ』(ともに日本テレビ系列)や『最愛』(TBS系列)といった、いわゆる“考察系ドラマ”が注目を集め、ブームと呼んでもいい状況に至っている。

そもそも考察は、探偵や事件が登場する推理ものに限らない。多かれ少なかれ、エンタメ作品には謎や伏線はつきものだ。以前からあったものを、良い意味で“クローズアップ”や“デフォルメ”することで作品の軸としているのが、考察系の作品とも言える。特にマンガやアニメ界隈ではもはや完全に定着したジャンルのひとつとなっている。

そんな“考察カルチャー”のど真ん中を行くような作品が、今回紹介する『クジャクのダンス、誰が見た?』。俳優の竹野内豊主演でフジテレビ系列“月9”枠でドラマ化され、2023年1月に劇場版が公開されたマンガ『イチケイのカラス』(講談社)の作者でもある浅見理都が手がけるクライム・サスペンスだ。

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散りばめられた謎を意外性と奥行きで演出

本作は実に衝撃的な展開で幕を開ける。クリスマスイブ、主人公の山下心麦(こむぎ)は、元警察官の父・春生と屋台でラーメンを食べた後、ひとりで映画を鑑賞した。迎えに来るはずの父を待っていたが現れず、歩いて帰宅していたところ、自宅が火事になっているのを目撃。なんと放火で父を亡くしてしまう。幸せそうな食事シーンからの激変ぶりが、なかなかにショッキングだ。

その後、春生が警察官時代に関わった一家六人殺害事件の犯人だった遠藤力郎死刑囚の息子・友哉が容疑者として逮捕されるが、心麦は父の残した手紙を発見。手紙に記された6人の誰かが自分を殺害した犯人として逮捕されたら「冤罪」だと書かれており、その中には友哉の名前もあった。真実を知るべく、心麦は真相究明に動き出す……という展開だ。

自分の死を予感していた父、残された手紙に記された6人、さらに冤罪を晴らすために依頼してほしいと名を挙げられていた弁護士の意外な事実など、開始早々からこれでもかと考察要素が放り込まれている。主人公の行動が解決に向けて変化を起こすも、真っ直ぐに進まないあたりも○。謎めいた展開と意外性で興味を引きつつ、奥行きの深さを感じさせる。

タイトルに込められた意味とは?

身近な人の死の真相に迫るという作品はほかにもあるが、先ほど説明した冒頭のストーリーもそうで、核となる部分がドッシリとしている中、緩急をつけたメリハリある描写が抜群。実際、最初の数ページを読んだだけで一気に引き込まれ、購読の継続を決意したほどだ。これはお世辞でも何でもないので、ぜひ体感してみてほしい。

刺激的なテーマでありながらどこか落ち着いた雰囲気を醸し出す絵のタッチで、ストーリーをグイグイ演出するのも申し分なし。法律監修や警察監修も入っていてリアリティに関しても抜かりなしで、厚みのあるストーリーは素直に続きが気になってしまう。

そして今作のタイトルもまた、考察要素のひとつだろう。ヒンディー語のことわざに「ジャングルの中でおどるクジャクのダンス、誰が見た?」というものがあり、おそらくこれが由来であろうと推測できる。「目撃者がいなくても価値があると言えるのか」という意味のものだ。

はたして本作で隠されている“クジャクのダンス”、すなわち真実は何か。そして“誰が見た?”、つまり犯人は誰なのか。そんなことをイメージさせるタイトルは意味深と言える。

既刊はまだ1巻のみだが、2巻の展開を目にしたとき、1巻で描かれた内容の見え方や評価がきっと一変するはず。どこまでが伏線なのか、地に足がついた良質なサスペンスに期待したい。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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