究極の選択を迫られた少年の孤軍奮闘。正解はない、けれど確かなことがある——『虐殺ハッピーエンド』

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虐殺ハッピーエンド
『虐殺ハッピーエンド』(宮月新/向浦宏和/白泉社)

※ややネタバレあり

目次

殺人の先にのみある明日、逃れられない運命――正しい選択とは何か

『虐殺ハッピーエンド』には、正解のない問いがある。どの答えを選択しても正しいとは言えず、真正面から間違いだと指摘することもできない。現実では決して直面するはずのない問い。それでも、考える。もしいつか、似たような問いを投げかけられたら。自分はどうすべきか、どうあるべきか。人間の“正しさ”について、考える。

主人公は心優しき高校生、草壁真琴。幼い頃に母親が家を出て、父親は借金まみれのアルコール中毒者であったため、重病の妹・詩織の治療費を稼ぐべくバイト漬けの日々を送っていた。

ある時、疲れ切った真琴が神社で「明日なんか来なければいい」と願ったことをきっかけに、残酷な運命に飲み込まれてしまう。それは、<一日一人殺さなければタイムリープしてしまう>というものだった。

思い悩んだ真琴は、詩織を救うため、大きな手術のある一ヶ月後までクズだと思える人間を殺し続けることを決意する。

その後、同級生の片桐千春が性被害を受ける現場を目撃した真琴は加害者である同級生を次々と殺し、その現場を目撃した千春に頼まれ、千春の義父を殺害。千春が協力者となり以後も殺人を繰り返すが、真琴に執着するようになった千春が詩織を殺そうとしたため、最後には手をかけてしまう。

真琴を犯人だと疑う九十九警部から逃げつつも殺人を続ける真琴は、逃亡中に立ち寄った家で父親の口から詩織は義妹であることを知らされる。そこで父親をも殺し、さらに母親を殺すために訪れた先で実の妹・相沢加奈と出会う。加奈や、真琴を救おうとする幼馴染・新庄弥生をタイムリープに巻き込みながら、真琴は罪を重ねていく。

スピーディーな展開、美麗かつ躍動感のある画やコマが、読者を虚構の世界へと、ある種のリアリティをもって引きずり込む。目まぐるしく変化する多彩な表情には登場人物たちの心情がまざまざと浮かび上がり、血に染まった被害者たちの歪な表情には絶望と終焉が確かに表れている。

自分の全てと言える程に愛する人物を救うため、誰かの命を奪わなければならないとしたら。答えのない問いに向き合い続ける真琴の姿に、あらゆることを考えさせられる。

著:宮月新, 著:向浦宏和
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罪を重ねることで確実に変化する真琴の人間性、その先にある未来とは

欲望のまま好き放題している大学生・竹原をターゲットにした真琴は、襲おうとした竹原の別荘で返り討ちに合う。弥生に助けられ、弥生とともに別荘で竹原の仲間を殺害していくも、弥生は真琴が殺したはずの千春に襲われ、反撃した所を警察に現行犯逮捕されてしまう。

弥生を探しに出た真琴は九十九に見つかり、聴取を受けることに。一度は疑いの目から逃れるも、九十九の執念と弥生の自殺により、真琴は隠すことをやめて呪われた運命を断ち切る決意を固める。始まりの神社の本社へ向かった真琴は、そこでタイムリープの正体と終わらせ方を知る。全てを知った真琴は果たしてどんな結末を選ぶのか、虐殺の先にハッピーエンドはあったのか――。

温かく正しい心を持っていたはずの少年は、殺人を繰り返すことで変わっていった。「殺してもいい人間」などいないことにも気付けない。初めは人を選び、彼らにも家族や友人がいることを理解し、罪の意識に苛まれていたはずなのに、最後には結末を阻害するだけの人すら無慈悲に殺すようになってしまった。

真琴の直面した問いに正しく答えられる者は恐らくいないであろう。しかしながら、本作に描かれた“確かなこと”はある。

怒りや憎しみが生むのは、つまるところ怒りと憎しみだけ。人を殺めれば復讐を呼び、憎しみは連鎖する。一度罪に手を染めれば二度と戻れず、かつての自分は消え去る。周囲の人間をも不幸にし、守りたいはずの人にも重荷を背負わせ、結局得るものなど何一つないということ。

現実にはまるで起こり得ない話かもしれない。でももし、似たような場面に遭遇したら。究極の選択に迫られた時、読者の皆さんならどうするか。考え、悩みながら真琴の罪と罰を見届け、咀嚼してみてほしい。

愛と倫理の間で葛藤する孤独な少年が紡ぐ憂鬱なサスペンス・ドラマ

『虐殺ハッピーエンド』は、原作・宮月新氏、作画・向浦宏和氏による、愛する者を守るため殺人を余儀なくされた少年の哀しい行く末を描いたパニック・サスペンス漫画である。白泉社によるウェブコミック配信アプリ『マンガPark』にて2017〜2019年まで連載され、完結済み、全8巻。

タイトルや表紙から連想される通りのグロテスクな描写も確かに印象的だが、愛する者を守るための代償が如何なるものかを見知させるには必要なものといえよう。漫画とはいえ、そこには綺麗事では済まされないリアルがある。

終わりの見えない呪いにかけられた時、選択の前に幸せな結末はあったのか。自らの人生を呪った瞬間、既に最良の結末は失われていたのではないか。誰かの犠牲の上に成り立つ未来を幸せと呼べるのか。

本作に触れ、浮かんでは消えるさまざまな問いと対し、今一度生と向き合ってみてはいかがだろうか。ただ生きていることの尊さを感じずにはいられまい。

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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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