多様な価値観に触れ、命について考える。金さえ払えば何人も救う闇医者の生き様—— 『バカレイドッグス』

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バカレイドッグス
『バカレイドッグス』(矢樹純、青木優/講談社)

※ややネタバレあり

目次

闇社会に生きる、辛い過去を背負った兄弟の生き様

現代に生きる“ブラックジャック”のような闇医者の日常を垣間見る。

『バカレイドッグス』は、闇の世界において超絶ワザで命を救う兄と、保険屋として稼ぐ弟の生活を描いた医療漫画だ。

短く簡潔に、それでいて兄弟のハードな過去と危険な毎日が丁寧かつ濃密に描写されている。作画は美しく、表情の描写は細やか、何よりオペシーンには三次元のようなリアリティがある。全3巻と大変読みやすく、ストーリーもバランスよくまとまっていて充実している。

現在のどこかにあるかもしれない世界。ここでは金、もしくは金になる何かさえがあればどんな人間でも救われる。ある意味命は平等であると実感する。本書を読み、改めて命の尊さ、その価値についてじっくり考えさせられる。

主人公・雪野鈴は父親の借金のカタにヤクザに捕まり、犬童兄弟に買い取られる。兄の犬童辰次は無免許ながら凄腕の闇医者、弟の亥三は保険屋だった。詳しい説明もないまま、鈴は彼らの元で看護師として働くことに。

金さえ払えばいかなる手術も引き受ける犬童医院には、ヤクザである土佐組の幹部、当たり屋、連続殺人犯……とさまざまな人間が訪れる。

鈴は犬童兄弟と過ごす中で、彼らの辛い過去、闇医者を続ける理由、臓器移植専門の闇医者である彼らの兄・寅太の存在を知る。厄介事に巻き込まれながらも目的の為に活動を続ける犬童医院。いつか目的は果たされるのか、その先に待つ結末とは……。

著:矢樹純, 著:青木優, 著:津覇圭一
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価値観次第で正義も倫理も十人十色、社会の面白さを知る

主人公の鈴は非常に正義感が強い。それに対し、辰次は闇医者でありながら社会のルールを守ることに固執し、正義や倫理に基づいては行動しない。

医療は人を助けることだが、無償のサービスではない。犬童兄弟は決して冷酷なわけでなく、払われた金額に対しては最大限の役務を提供する。子どもや妊婦に対してもそのスタンスは変わらない。

また、長男の虎太は自身が“価値ある命”と認めた人間のみを救う。その行為の正しさを絶対に疑わない善人である。

登場人物それぞれが異なる価値観を持ち、それを断じて曲げないまま共存している点が実に興味深い。共感や反感はあれど、誰にも間違いだとは断言できない。「瀕死の母親を救いたい娘にまで大金を要求するのはおかしい」という考えも、「誰であれ決まった金を払えば救う」というルールも、腕のある者が「救いたい者だけを救う」というのも理解できる。誰も間違ってはいないのだ。だからこそ人間は面白いし、社会は難しい。人間社会の縮図が表現されているようで、多彩な感情が浮かんでは消え、実に読み応えがある。

重厚なストーリーはもちろん、緊迫感のある迫力のオペシーンにも注目したい。医療監修が行われていることもあり、その描写はどれも繊細で現実味がある。同時に、オペシーンに伴う痛みの表現も秀逸だ。

思わずその痛みや苦しみが伝わってくるようだ。やはり適切な金額で最適な医療を受けたいものだと実感。闇社会で生きる痛みを疑似体験して、そちらの世界には足を踏み入れないように心掛けよう。

闇医者・辰次の前に命は平等である。

金さえあれば人柄やバックグラウンドも関係ない。犬童医院の医療スタイルは、ある種究極の平等ともいえよう。悪人を救うこともあるわけで、それが正しい姿であるかは分からない。

本書に触れ、皆さんは何を思うだろうか。誰の考えに近しいだろうか。正解も不正解もない、これぞ十人十色。命とは、正義はどこにあるのか、改めて考え、自分自身における正解を見つけてみて。

フィクションでこそ輝く、悪をくじくヒーロー 美麗な作画、起伏のある展開、示唆に富んだ物語――高完成度の医療漫画

『バカレイドッグス』は、原作・矢樹純氏、漫画・青木優氏、構成・津覇圭一氏、医療監修・茨木保氏による、裏路地“バカレイ”生きる闇医者と保険屋の兄弟の生き様を描いた医療漫画である。「週刊ヤングマガジン」にて2017〜18年まで連載され、完結済み、全3巻。続編『バカレイドッグス Loser』は講談社による漫画アプリおよび配信サイト「コミックDAYS」にて、2019年より連載され、完結済、全5巻。本作の世界観にハマった人には、続編もぜひ堪能してみてもらいたい。

描き込まれた医療シーンや暴力シーンにはインパクトがあり、ストーリーには考えさせられることが多く、自分はいかなる価値観を持った人間であるかがよく分かる。ハイクオリティな出来なので、一気読みすれば有意義な時間を過ごせること請け合い。

残酷な描写や痛い表現が苦手という人には注意が必要だが、読めば頭がフル回転するので、自分を見つめ直すきっかけにもなるはず。

筆者としては、最後のシーンが新鮮で素敵な終わり方だと感じたので、皆さんがどう感じたかをお聞きしたいところだ。

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著:矢樹純, その他:青木優
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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