『ダンジョンの中のひと』――ダンジョンの運営側を描くというアイデアが抜群! ちょっとクセものな“職業ファンタジー”がツボを刺激

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 『ダンジョンの中のひと』(双見酔/双葉社)
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ダンジョンは探索するものではなく運営するもの!?

本作の舞台はロールプレイングゲーム(RPG)に登場するダンジョンが舞台。もともとは「地下牢」のことを意味する単語だが、RPGなどでは、迷宮のような空間を指し、そこには敵モンスターや宝箱、そしてボスキャラなどが出現する。そんなダンジョンを題材にした作品の中でも、本作はダンジョンの“運営側”にスポットを当てるというアイデアが実に面白い。

主人公は「シーフ(盗賊)」である少女・クレイ。並外れた強さを誇る父に鍛えられ育てられたが、ある日ダンジョンに旅立った父が帰還せぬまま3年が経過し、クレイ自身も父を探すためダンジョン探索をする日々を送っていた。そしてクレイはダンジョン内で発生したある出来事をきっかけに、ダンジョンの管理をしているというベイルヘイラ・ラングダスと出会い、ダンジョンで働くようスカウトされ……というのが、本作のあらすじだ。

第1話の冒頭数ページは、一般的な異世界ファンタジーのように、ダンジョン探索や冒険の旅がメインになるように見せかけて、ちょっとゆるめのテイストだが、途中で意表を突き方向性をガラッと変化させる。導入として申し分ない展開に、どのようなストーリーが紡がれていくのか一気に興味をひかれる。

ダンジョンにまつわる素朴な疑問の数々にある種の“答え”が……

公式記録では最深到達階数も地下7階とされているものの、クレイは地下9階に到達。そんな強さを持ってしても敵わなかったのがベイルヘイラ・ラングダス。いわゆるダンジョンの“中の人”であり、彼女の口から「うちのダンジョン」「低層のスライムや不死系の補充」「トラップの修繕」「モンスター雇用の面接」など、まるでちょっとした業務のようなワードが次々と飛び出してくるあたり、少しでもゲームに触れたことがある人ならきっとニヤリとできるはずだ。

よくよく考えてみれば……といっても、ゲームをプレイ中にダンジョンの運営に思いを馳せる人はかなり少ないだろうが、ダンジョンが日常的に存在するのが当たり前の世界の場合、一つのダンジョンに挑むのは探索者の1人や1パーティとは限らない。

もちろん誰かに倒されたモンスターが自然に復活したり新たに現れたりするのはまだしも、宝箱の中身の補充はどうなっているのだろうかと疑問に思わなくもない(誰かが開けたら空のままというパターンもあるが)。

もっと言ってしまえば、どこにどんなモンスターを出現させ、トラップをどこに仕掛け、宝箱はどこに配置するのか。そんな細々とした“業務”をこなしてくれている存在がいるのではないのだろうか。そんな楽しい想像を地でいくように描いているのが、本作の醍醐味の一つといえる。

世界観の妙と設定の奥行き、さらに過去から現在へつながる縦軸の謎など、ゆるめの雰囲気ながら仕掛けもバッチリ

基本的には日常系のようなまったりとした空気感でストーリーは進むが、戦闘に関してはキュートなタッチとは裏腹に、思いのほかシリアスさが満載なのも緩急があって◎。さりげない会話から明かされる世界やダンジョンの“裏事情”に思わず納得することもあれば、落差にクスッとさせられる描写も。

ダンジョンにまつわるあれこれだけでも十分魅力的だが、そこには消息不明になっているクレイの父親の行方や、1巻に登場する、とあるパーティの動向、はたまたダンジョンの存在意義や運営の意味など、盛りだくさんの気になる要素も用意されている。

各種設定を小出しに見せてくるが、読みやすさと面白さのボーダーラインを絶妙に駆使しているので、複雑な設定が苦手な人も安心。シンプルさと奥行きのコンビネーションの痛快さと、チャーミングなキャラクターが素敵だ。思わずダンジョンで働きたくなってきた。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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