ゆるふわなのに濃厚な味わいがクセになる? 不思議な旅漫画『ぱらのま』

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ぱらのま
『ぱらのま』(kashmir/白泉社)

“ゆるふわ”で“残念な”お姉さんが織りなす気ままな鉄道旅を、“ゆるふわ”なままに描く『ぱらのま』。“旅する漫画”の世界でカリスマ的な人気を得てきた作者が送る最新作は、ゆる~くソフトなひとり旅が好きな方なら、間違いなくハマる作品に?

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だらしなさ全開のお姉さんが旅をするだけの漫画!?

髪はボサボサ、温泉宿では前がはだけた浴衣姿でビールをグィッ……。だらしなさ全開な、美人かもしれないけれど美少女ではなく、おそらくは独身で、飲酒OKなことから“それなり”の年齢のお姉さんが、本作品の主人公。年齢・職業はおろか名前も不詳な、およそ主人公らしくない主人公(=ヒロイン)です。

そんなお姉さんが気ままな旅に出て、街歩きや温泉巡りをしながらフラフラする物語……って、解説になっていないのですが、そのまんまなのでどうしようもなく。

作者・kashmir氏の前作『てるみな』(白泉社、連載継続中)は、猫耳の少女が奇妙な鉄道に乗車し、シュールな幻想世界を旅する物語。その非現実的な世界観は、怪異や怪奇現象といったジャンルに区分けされてもおかしくないもの。ブラックユーモアが苦手な人にはおすすめしにくい、読み手を選ぶ作風でしょう。

いっぽう、続編的な立ち位置にある本作は、そうした“怖い”部分を抑えつつ(ゼロではない)、より万人向けな読みやすい作品に仕上げられています。作者の味わいでもある“ゆるふわ”さを前面に押し出した作風は、新境地の開拓ともいえそうです。

著:kashmir
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達人レベルの知識と憧憬的な情緒が織りなす旅

主人公のお姉さんは、気ままな旅人とはいえ、何もかも気ままなわけではありません。鉄道を中心とした公共交通機関、旅先の地理、温泉や名産品など、旅の知識に長けた達人ぶりを随所で発揮します。

鉄道でのひとり旅が好きな方なら、お姉さんの行動や言葉ひとつひとつに、「うんうん、そうなんだよ」と頷ける部分も多いのでは。旅好きかつ旅知識が豊かな人も満足できる旅漫画なので、“ゆるふわ”な作風に秘められた、濃厚な内容に驚かされることも。

路面電車の旅で掲載される“現存路面電車一覧”などにも、思わず見入ってしまうことでしょう。“無計画旅行”派なお姉さんがどこへ向かうのか、何をしようとしているのかは、例え旅好きな読者でも容易に想像できません。

新宿駅から旅を始めるにも、小田急電鉄や西武鉄道などの私鉄特急も選択肢に含めつつ、最終的にはJR中央線の特急『あずさ』をチョイス。駅の券売機や路線図を前に「さぁどこへ行こう」と考えるお姉さんは、ちょっと素敵すぎ?

やがて旅は「あ、富士山を見よう」と展開していきますが、各物語で当たり前に描かれる“旅には温泉が付き物”感も、旅好き読者には納得できる(嬉しい)スタイルかと。訪れた温泉地の光景はどこか憧憬的で、つげ義春の作品にも相通じる情緒を感じさせます。

群馬県の水上温泉は、

「自然渓谷と人工物と廃墟が複雑に入り混じる、わくわくする景色なのだけど説明しづらい」。

長野県の角間温泉や百合居温泉を評した言葉は、

「木造密集石畳」。

ナレーション風なお姉さんの感想や言葉には、思わず唸らされることもしばしば。こうした独特な感性が、作品最大の魅力なのかもしれません。

旅好きな“乗り鉄”派の心に刺さる鉄道旅

旅手段の中心となる鉄道にも、作者特有のこだわりが感じられます。単行本の目次ページが“駅の伝言板”風や“車内に掲示される路線図”風な面白さに加え、感性豊かな言葉が次々と読み手の心に刺さります。

鉄道好きなら誰しも経験済だろう、列車の最前部で前面展望を楽しみつつ……。

「運転士に変なプレッシャーになってそうで、あんまり見ないようにしてしまう」

そう、実は同好の士の多くが、「(運転士を)見ちゃいけない」重圧に耐えているわけで(笑)。

一方、座席からの側面展望も楽しみで……。

「ご当地の生活を体験する感覚に近い」

「遠くでついてくる山々 寄り添うように蛇行する川 ふとん干す人 農家にキジ 謎の看板……時間ある限り途中下車したい派としては、こちらのほうが(前面展望より)都合がいいのだ」

そう、列車で眠りこけるなど、旅好きには論外なのです。

ちなみに、最近は切符を買う機会が減り、旅の記念に切符を保存する習慣も薄れつつある話題では、

「ICカードも履歴を印字しておくと少しそんな気分が味わえます」。

なるほど!

鉄道だけでなく、敢えて遠回りになってもバスやフェリーを利用し、“乗ったことがない交通手段で目的地を目指す”旅も描かれます。旅好きな方なら、これも経験則なのでは?

いずれの楽しみ方も、ほんの小さな、ちょっとした旅のアレンジです。でも、それが旅の本質を変え、旅に深みを与えてくれる。『ぱらのま』が醸し出す旅エッセンスは、とても楽しい中毒性に満ちているはずですよ。

著:kashmir
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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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