『ゴールデンラズベリー』――「死ぬほど面白い仕事をする」ために、業界の片隅に身を置く自分には何ができるのか。

当ページのリンクには広告が含まれています
『ゴールデンラズベリー』(持田あき/祥伝社)

『ゴールデンラズベリー』は、「ハイスペックだが仕事が長続きしない男」が、「美人だが恋が長続きしない女」を偶然街でスカウトしたことから始まる、芸能界サクセスラブストーリー。「第25回文化庁メディア芸術祭」(2022年)のマンガ部門の大賞に輝いた話題作だ。仕事柄、取材現場でタレントとマネージャーに接する機会も多い筆者から見た、本作の魅力を紹介したい。

目次

「酒のツマミ」でも話題になった「マネージャーとタレントの知られざる距離感」

先ごろテレビで放送されたトークバラエティ番組で、スタジオに呼ばれたタレントたちが、マネージャーとの距離感について、こんな風に明かす場面があった。某アイドルグループ出身の女性タレントは、自身が恋愛体質であることから、「マネージャーにプライベートを逐一報告する義務がある」と言い、ある若手俳優は「マネージャーと1日中行動を共にしていても、一言もしゃべらない時もある」と語り、スタジオ一同を驚愕させた。

週刊誌にタレントの熱愛報道が出たときの対応も、事務所の方針や規模によってまちまちだ。迅速に火消しに走る事務所もあれば、「プライベートは本人に任せている」と答える事務所もある。先述のように、タレントが自身のマネージャーとのやりとりについて話すこともあるが、基本的には裏方業である所のマネージャーが、日々どんな思いを抱え、どんな仕事をしているのか。その詳しい実態はあまり知られていない。

だが、業界の舞台裏を綴った『ゴールデンラズベリー』を読むと、「まだ誰にも見つかっていない」逸材を自分の目で発掘し、一流のスタッフたちの手で磨きをかけて世に送り出す、マネージャーという仕事の面白さを知ると同時に、今の自分を持ち得る力の全てを出し切って、「死ぬほど面白い仕事をしてみたい」という衝動に駆られてしまうのだ。

「転職24回目のポンコツ男」と「本気で愛されたことのない女」がタッグを組むと……?

高学歴で見た目も良く、一見ハイスペックに映る北方啓介は、過去に転職を24回も繰り返してきた典型的な「見掛け倒し」のポンコツだ。最近入社した芸能事務所でも、華々しくデビューさせるはずだった新人女優に土壇場で逃げられてしまい、一気に奈落の底へと突き落とされる。「この仕事も自分には向いていない……」と辞めようかと思っていた矢先、街で見かけた11歳年下の女性、吉川塁の瞳にひらめきを感じてスカウトし、あろうことかその1週間後には「交際0日」でプロポーズまでしてしまうのだ。

一方、美人ゆえに恋愛関係が多い吉川塁にも、人知れず悩みがあった。それほど好きではない男ともすぐに関係を持つが、正直長続きしたことがない。そんな自分に対して、「君と死ぬほど面白い仕事がしてみたい」と土下座してまで頼み込んでくれた北方に心を動かされた塁は、「私も本当は一度でいいから誰かに本気で選ばれてみたかった」「北方さんと(恋愛より)もっと面白いことがしてみたい」「私を思う存分コマとして扱ってください。私はあなたをボードとして見ます」「勝ちましょう」と、自らの人生の舵を大きく切り始める。

業界の片隅に身を置く一ライターとして、いまの自分が目指すこと

タレントとマネージャーという立場でありながらも、惹かれ合ってしまう2人の恋模様も本作のテーマのひとつではあるのだが、筆者が最も心を掴まれたのは恋愛要素ではなく、仕事や恋が長続きしなかった、「同じ穴のムジナ」である北方と塁が、「芸能界で成功する」という同じ目標のため本気で走り出したときに放つエネルギーと、疾走感の方だっだ。

オーディションに落ちても、「私落ち込んでなんかいません」「くやしくて、くやしくて、いまそれを噛み砕いているところなんです」「本気でやったから」と言い切る塁の向上心にゾクゾクさせられると同時に、「スポットライトを浴びて目が変わる瞬間のタレントを、この暗闇から見つめられるのは制作側だけだ」「こんなに興奮する仕事あるか?」と目をギラギラさせる北方にもそそられる。

日頃、俳優たちがスクリーンの中で放つ魅力にフォーカスを当てて記事を執筆している筆者にとって、彼らの才能を最も近くで見つめ、本人がより一層輝ける方向に進めるように尽力するマネージャーたちの姿は、「死ぬほど大変そうだけど、売れたときの喜びも生半可なものじゃないんだろうなぁ」と眩しく映る。

業界の片隅に身を置く一ライターとしては、「たとえ俳優たちと共に現場で戦う伴走者にはなれなくとも、せめて記事を読んだ監督やプロデューサーが『この俳優を使ってみたい』と感じ、それまでファンではなかった観客でさえ『スクリーンで見てみたい』と思うような。いや、欲を言えば、書かれた側の俳優たちが『いままで俳優を続けてきてよかった』『これからも頑張ろう』と思えるような、そんな有意義な記事を書いていきたい」と、この『ゴールデンラズベリー』を読みながら、筆者は改めて決意した。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

目次