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“他人事”をポリシーに掲げたニュータイプな弁護士と、ネットトラブルに対するリアルで実践的なテイストがキラリ!――『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』

『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(原作・左藤 真通、作画・富士屋 カツヒト、 監修・清水 陽平(法律事務所アルシエン)/白泉社)

もしもSNSで炎上したらどうする……?

インターネット上における誹謗中傷やSNSで発生する炎上など、一昔前なら他人事だと思っていたことが、今やいつ自分の身に降りかかって被害者になったり、反対に意図せず誰かを傷つけ加害者になったりするかわからない。そんな現代だからこそ、より身近でリアリティーを感じながら読み進められる作風で話題となっているのが、今回紹介する『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』だ。

本作は、現実世界でもたびたびニュースなどで見聞きする機会も多いネット上のトラブルについて、インターネット案件に強いという触れ込みの弁護士・保田理(やすだ・おさむ)が、自身のもとを訪れた依頼者の要望に合わせて事態に対処していくストーリーが描かれる。便利さの裏に潜む、ネットにまつわる“闇”とも表現できる内容が題材となっているだけに、それだけでも十分興味をそそられるのだが、物語に深みと味わいを増すための要素が多数。今回はポイントを絞って本作の面白さを考察していきたい。

情熱的には見えないが、親身さと冷静さを併せ持った誠実さがにじむ主人公

いろいろと見せ場や仕掛けは数多くあるが、まずは何と言っても主人公の保田理。主人公だからというのもあるが、彼のキャラクター性なくして本作の良さを語ることはできない……と言っても言いすぎではないだろう。

彼の職業は弁護士。そう聞くと、相談者や依頼者の心情を思いやり懇切丁寧な対応をする人物を思い描く人もいるかもしれないが、ある意味で“対極”のような描き方をされている。例えば第1巻収録の第1話で、弁護士無料相談会に参加した保田は訪れた相談者に対していわゆる“塩対応”のような言動を繰り返し、かなりドライな雰囲気を漂わせているのだ。

極めつけは、自身のパラリーガルの加賀見灯(かがみ・あかり)に相談者や依頼者に寄りそった方がいいと言われた際に放つ、「所詮は他人事じゃん?」というセリフ。それでいて依頼者が感情を整理できずにいる様子を見て、「泣いていないでちゃんと説明してください」「無料相談は時間が短いので勿体(もったい)ないです」と伝えるなど、言い方こそシビアだが実は真摯かつ論理的に対応をしていることがわかる。

人情派とほど遠いキャラクターではあるものの、代理人として適度な距離感を保ちつつ冷静で的確な判断を下す。いわゆるドラマや映画に登場する“良い弁護士”のイメージとは異なるが、本作の依頼者にとっては結果的に“よい弁護士”になり得る可能性を秘めている点は興味深い。人情派な部分を灯がそれとなく請け負っているのも、バディのチームバランスとして悪くない。

勧善懲悪で終わらせない、現実感を伴った作風に深み

最初の依頼者である主婦ブロガー・桐原こずえは、ガセ情報を書き込まれたことから炎上トラブルに巻き込まれていく。身に覚えのない誹謗中傷に対して情報開示請求を決意するのだが、そこまでの流れや案件依頼時の料金の相場、請求を受け取った相手の反応は、コメディチックな描写ながらも民事裁判の様子まで、実情に沿った描かれ方で深みを演出。弁護士が監修に入っているのが大きいのだろう。

また、情報開示後の工程を具体的に示し、それぞれのメリットやデメリットにさりげなく触れつつ進めていくあたりは、知的好奇心がくすぐられる。デフォルメされた部分はあるだろうが、リアル路線のテイストは心地いい。すべてが終わったかのように見えた後の“その後”も、現実でも起こりえそうな出来事として怒濤の如く押し寄せ、クライマックスまで文字通り目が離せなくなるはずだ。

「他人事」に込められたものが作品の見え方の幅を広げる

キャラクターにテーマ、ストーリーの演出まで、さまざまな要素が絶妙なバランスでマッチしていることで生み出されたとも言える本作。その面白さと魅力を独特の味付けで支えているのが、作品タイトルにも入っている「他人事」という言葉ではないだろうか。

第1巻だけでも何度か登場し、保田の事務所にポリシーとして掛け軸に書かれてもいる「他人事」。作品名のように「しょせん」とつけるとさらにイメージは増すが、言葉の意味も自分とは無関係な人に関することだけに、マイナスやネガティブ方向で使われる場合が多い。

ところが本作では、本来の意味としてだけではなく、別の意味合いが込められているのをひしひしと感じる。「この仕事は常に冷静でいなきゃ」や「必要な事を粛々とやってるだけです」といった保田のセリフや一貫した態度の真意などには、ポジティブさを感じる。そこに問題解決の一つのカギがあり、相手に感情移入して喜怒哀楽を共有することの危うさや難しさ(もちろん単なる他人事の冷たさも)を指摘しているように受け取れる。

作品のテイスト上、読後感がスッキリ爽快にして痛快なだけにはとどまらないが、自分事にもなるかもしれない問題に対し、被害者と加害者、両方の視点を交錯させながら描くストーリーは秀逸。法律関連の要素も事実を踏まえて構成されているため、かなり読み応えも。納得感あふれる一作だ。

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