弱みをさらけだしても受け入れてくれる人と生きることの大切さに気付かせてくれる漫画『カノジョは今日もかたづかない』

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『カノジョは今日もかたづかない』(加納梨衣/祥伝社)

傍から見ると恋も仕事も順調そうだが、実は要領が悪くて片付け下手な汚部屋の住人・俵あいなの奮闘を描くお仕事系恋愛漫画『カノジョは今日もかたづかない』。「完璧そうに見える女性が実はそうではなかった」という展開は少なくないが、本作が多くの女性読者の共感を集める理由は、主人公がただのズボラ女子ではなく、「頑張っているのに片付けだけができない」ところにあるように思えてならない。後ろめたさを抱えて生きるあいなに「自分だけじゃない」と励まされつつも、部屋が片付かないことで起きるさまざまな弊害に、「一見関係がないようでいて、結局全部つながってるんだよなぁ」と身につまされる。

目次

部屋が汚くて彼氏を招けず、ギクシャクする関係に――。一方、憧れのキレイな部屋の住人は、いけすかない同僚だった!

物語の主人公はデザイン会社勤務のアラサー女性・俵あいな。華やかなオーラを放つステキ女子として周囲からは憧れられているが、実は「部屋を片付けられない」というコンプレックスがある。ちょっと無理して借りた1LDKも、心機一転、新しい食器やパジャマをそろえて、心地よい日々を過ごしたいと思っていたのに、気づけば足の踏み場もないほどぐちゃぐちゃに――。そんな彼女の癒やしは、ベランダから見える同じマンションのきれいな部屋を眺めることだった。「自分の部屋もクリスマスまでになんとかしなくちゃ!」と頭の隅では思いながらも、一向に片付かない部屋にうんざりしている。

そして結局、付き合って半年のイケメン彼氏と一緒に迎えるはずだった記念すべき初クリスマスも、仕事も部屋も片付かずにドタキャンする羽目になり落ち込むあいなは、自宅マンションの前でいけすかない同僚の深川宗介とバッタリ会い、彼の部屋に招かれる。なんと彼はあいながいつもベランダから眺めていた、オレンジの間接照明が映える理想の部屋の住人だったのだ……!

二人は、新年早々同じプロジェクトに取り組むことになるが、クリスマス以来イケメン彼氏とのすれ違いに悩むあいなは、仕事のトラブルをさりげなくフォローしてくれたり、不器用ながらも優しく励ましてくれたりする深川のことを、次第に意識するようになる。だがあくまで彼女が愛してやまないのは、深川自身ではなく、いつもきれいに整頓された深川の部屋だった。思わず「好きです(あなたの部屋が)」とあいなは告白するが、「実はおれ、引っ越そうと思ってるんです」と深川から衝撃的な発言が飛び出した。果たしてあいなの日々は、どうなってしまうのか――。

大切なのは、ダメな自分も受け入れてくれる友人を持ち、自分の特性をカバーしながら生きやすい方法を見つけること

この物語の興味深いところは、同僚の深川には汚い部屋も見せられるあいなが、「イケメンの彼氏には絶対に知られたくない」と、一向に部屋に入れようとしないこと。だが実は彼氏は彼氏で、同期の別の汚部屋女子の部屋を訪れても、幻滅するどころか「君は本当にズボラだねぇ」と笑いながら、代わりに片づけてあげたりしていたりするのだから、人生はままならない。もしも彼氏にもありのままの自分を見せることができたなら、誤解から別れ話を切り出されるようなこともなく付き合えていたのかもしれないが、所詮すべては「たられば」であり、「汚部屋の友人は許せても、自分の恋人となると話は別」という人が多いのも事実。

ちなみに「今のぐちゃぐちゃな生活を立て直したくて。深川さんの部屋みたいにキレイにしたくって……。だのにうまくいかなくて、迷惑かけてスミマセン」と泣きじゃくるあいなに対して深川は、「おれは部屋の中に気に入った場所を一つだけ作ってるんです。んで、そこだけは必ずいつもキレイにするようにしています。そうすると自然に周りの場所も目について片付けていくので、なんとなく部屋全体がキレイな状態を保ててます。おれがやってるのはそれぐらいの事で、前は俵さんみたいなもんでしたよ」とアドバイスする。仕事だって同じで、深川だって決して要領がいいわけではなく、定時に帰るために人より2時間早く出社していたりする。そういう陰の努力を知らずに、人は人に憧れてしまうものだ。

大切なのは、できもしない目標を立てて無理をしたり、かたくなに自分ひとりの力で何とかしようと頑張ったりするのではなく、いち早く自分の特性を知り、それに合った対処方法を編み出し、頼れるところは人に頼り、自分が生きやすい方法を見つけるように心がけること。そして人には言えない苦しみや過去の過ちも、いつか共有できるような友と出会うこと。『カノジョは今日もかたづかない』を読んでいると、恋人以上に救いになってくれる存在を持つことの重要さに(たとえそれが人ではなく“部屋”だったとしても!)改めて気付かされると同時に、お互いに時々弱みをさらけ出しながらも、それすら受け入れてくれる人と一緒に生きる方が、取り繕いながら生きるよりよっぽど幸せなのではないか、と考えさせられるのだ。

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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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