『ジドリの女王 ~氏家真知子 最後の取材~』一念発起で事件を追う決意をした芸能記者……報道のあり方に一石投じる作風が静かで熱い

当ページのリンクには広告が含まれています
『ジドリの女王 ~氏家真知子 最後の取材~』(トウテムポール/講談社)
目次

信念に基づき仕事とひたむきに向き合う主人公の姿に魅了

皆さんは「地取り」という言葉を知っているだろうか。警察ものに触れたことがある人ならわかると思うが、地取りは事件現場の周辺で行われる聞き込み捜査を指す言葉。ちなみに、被害者の交友関係などに話を聞く捜査を「鑑取り」と言う。本作のタイトルにもある「ジドリ」も同様の意味で使われていて、主人公の氏家真知子は、第1話にてとある事件のジドリ要員に志願することになる。

氏家真知子は芸能記者で、自らが手がけた記事を読んだ読者が大騒ぎしている状況を見て、「この世界は私が操っているって 気分になれる」と快感を覚えていた。そんな週刊誌のエースとして活躍してきた彼女だが、記者としてピークが過ぎてしまったのではとあせっていた折、後輩記者がものにしたスクープである「中学生の不審死事件」に感心を寄せる。

その結果、彼女はジドリ要員に手を挙げることに。事件が起きると空気が変わり芸能ネタが吹っ飛ぶこと、断片的に描かれた父からの言葉ほか、さまざまな要素が見え隠れする中、周囲の反対の声には、「人気商売なのだから人気があるものを取り上げるべきじゃないんですか」という、ある意味で核心を突く潔い一喝。そして、ある行動で決意を示す様子は、どこまでもストレートで心地いい。氏家真知子の自分の信念に従った行動や言動はどことなく危うさを感じるものの、見ていて胸がすく。

キャラクターの強さに負けない、お仕事マンガ的な面もキラリ

本作は氏家真知子の、結果を出すためなら何事もいとわない姿勢や繊細ながらタフさあふれる精神力など、強烈なキャラクターで物語を引っ張り、読者の目を引きつけている。

一方で、記者が書いた記事に対して読者や世間の注目を集めるような見出しを加える編集、その裏でもがく記者の心情、他社を一歩でも出し抜こうと動き回る姿、現場におけるメディアの力関係など、職業もの、お仕事マンガとしての一面もまた見逃せない。もちろんデフォルメされている部分はあるだろうが、素直に興味が引かれていく。

そうした土台の上でさらなる輝きを放つのが氏家真知子だ。ジャーナリズムを「事業」と言うも、新たな事実をみつけて雑誌が売れる限り事件を追えるとまとめる。真相を知るためには興味本位でもいいと言い切る姿勢は、実にすがすがしい。 前提や動機は何であれ、とにかくたどり着かなければ意味がない。彼女の行動を見ていると、時にヒール(悪役)的に見える部分もあるが、奥底には大切な何かがあり、事件が途中で忘れ去られてしまわないようにとあがく姿勢もまた、ある意味でジャーナリズムであり、氏家真知子のジャーナリスト魂と言えるのではないだろうか。

常に不穏さが漂う作風に吸い込まれる

中学生の事件を縦軸にストーリーは進んでいくが、並行して彼女自身を形作ったであろう父親にまつわる何かなど、数多くの謎が放り込まれつつ展開していく。点と点はつながるようでいて結びつかず、物語全体を通して、どこか不穏な空気感が常に漂っているように感じられる。さらに、登場人物たちにも、表面的には見えない何とも言えない狂気のようなものを秘めている感覚もあり、物語も事件の終結もまったくと言っていいほど読めない。

時代的な要素と閉鎖的な要素と現代的な要素。それぞれの要素をバランス良く……というよりは、ごちゃ混ぜにしているはずなのにきっちりまとめあげ、危ういバランス感で描いている本作は、言いようのない不安感とカタルシスが味わい深い。2023年8月には3巻が発売予定なので、この機に追いつき、氏家真知子の生き様を感じてみてほしい。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

目次