年を重ねた今だからこそまた読み返したい『ぷらせぼくらぶ 新装版』

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『ぷらせぼくらぶ 新装版』(奥田亜紀子/祥伝社)

思春期の中学生たちの切実な日常を、みずみずしい言葉と独特のタッチで描き出した奥田亜紀子による傑作連作短編集『ぷらせぼくらぶ 新装版』。以前紹介した『雑草たちよ 大志を抱け』(池辺葵/祥伝社)や『教室の片隅で青春がはじまる』(谷口菜津子/KADOKAWA)など、モブキャラの中高生たちにフォーカスした傑作青春漫画は数あれど、本作には大人になってからあの頃を振り返る短編も含まれていて、古傷をえぐられるような気持ちにもなる。刊行から10年ぶりに読み返して改めて感じた本作の魅力に迫りたい。

祥伝社
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2013年に刊行されるも絶版に……10年ぶりに読み切りを加え新装版が登場

昔読んでも刺さらなかった漫画や本が、ふとした拍子に「一生もの」に格上げされることがある。もちろん逆もまた然りで、昔読んだときはめちゃくちゃ刺さったはずの作品を、数年後に再び読み返してみたら、「あれ? こんなお話だったっけ?」「あの時、なんであんなに感動したんだろう……?」と、自分で自分の感性が信じられくなることもある。だからこそ、もしも本当に自分に必要な漫画や本や映画に出会いたければ、たとえ食指が動かなくとも、折を見て何度も出会い直すことが必要だ。だが、一度「これは自分には合わない」とジャッジしたものを、再び手に取る可能性は限りなく低い。信頼のおける人から強烈にオススメされるとか、忘れかけたころに新装版が出て、「これ、前に一度読んだことあったっけ?」とうる覚えのまま読み始め、思いがけずホロリとしてしまうような、そんなケースを除いたら。

今回紹介する『ぷらせぼくらぶ』と筆者との再会は、まさしく後者のパターンであった。2013年に刊行され、絶版となっていた同名の連作短編集が、『ぷらせぼくらぶ 新装版』として2023年5月8日に祥伝社から発売されたタイミングで読み返し、ドハマりしてしまった。

ネガティブなひねくれ者だけど実はナイーブで、当たり前のように大人になっていく周りの変化についていけない中学2年生の岡ちゃんと、地味で冴えないクラスメートのことを「残念」呼ばわりしているが、実は自分が一番「残念」であることを自覚して思い悩む幼馴染の田山。そして、クラスメートに嫌われたくないがゆえに、本音を隠して生きる武庫島。

「彼らは、紛れもなくあの頃の私だ――」。本書で、岡ちゃんや田山、武庫島たちと再会し、思い出すだけでも胃のあたりがキュッとなるあの日々が、強烈にフラッシュバックした。

大人目線で客観的に語られるからこそ、より一層心に響くエピソードも

なかでも強烈だったのが、幼馴染で親友だった岡ちゃんと田山の関係がある出来事を境にギクシャクし始めたとき、そのやり取りを仕事中にたまたま見かけた30代の女性の視点で描かれる、「窓辺のゆうれい」だった。田山と友人とのやりとりから岡ちゃんが影では「毒まんじゅう」というあだ名で呼ばれていることを知った女性は、自分も中学時代のあだ名が嫌いだったことを思い出し、あだ名をつけたクラスメートとの「成仏させた」はずの記憶が、芋づる式に蘇る。実はちょうどそのクラスメート(カバモ)から、唐突に「15年ぶりに会いたい」との誘いを受けていたのだ。仕事を理由に誘いを断ったものの、当時半ば絶交したような間柄だったのに、なぜ今頃カバモは自分に会いたいと言ってきたのだろう……?  その真意を測りかねていると、女性の目の前にカバモが現れて……というストーリー。

女性は、岡ちゃんと田山たちとのやりとりを尻目に、「女子の友情ってものは、傍から見るとホントにしょうもないな……」「取るに足らないモノで出来てるから、簡単に壊れるんだ」と、完全に上から目線で眺めていたが、数日後、岡ちゃんが汗をかきかき田山に歩み寄り、なんだかんだと毒を飲み込んで、「毒まんじゅう」から、「ただのまんじゅう」になろうとしている様子を目にし、「あんなふうに私、かっこわるく自分から誰かに、歩み寄ったことあったっけ」と自省するのだ。青春真っ只中で些細な事にも一喜一憂しながら右往左往している人たちの、その愚直なまでの必死さに、年を重ねた今だからこそ大いに学べることがある。

新装版には、38ページにわたる描き下ろしの読み切り「夕子の思い出」も収録されている。必死だったあの頃の自分を忘れかけてしまった人は、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。

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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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