徴収員の視点で描く、未払い納入者VS一流徴収員の熱き攻防。笑って考えさせられる新感覚コメディ―—— 『ウチにテレビはありません』

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『ウチにテレビはありません』(原作・オクショウ、漫画・井上菜摘/秋田書店)
目次

受信料徴収問題に徴収員の目線から迫るユーモラスなコミック

一人暮らしの経験があれば、誰しもが直面するNHKの受信料徴収。テレビを所有していない場合を除き、受信料の支払いは放送法によって義務付けられている。契約形態や支払い方法で異なるが、1カ月に換算すると1,000円以上にはなるため、決して安いとはいえない。テレビを所有しているだけでほとんど視聴しない人にとって、これは由々しき問題である。そのため受信料徴収は度々話題に上がり、多くの関心を呼んでいる。受信料徴収員のしつこさも問題になることが多く、インターネット上にはその撃退法なるものが溢れている。強引な受信料徴収に対する国民の不満は大きく、「NHKをぶっ壊す!」のフレーズでお馴染みの「NHKから国民を守る党(現NHK党)」という政党が誕生してしまうほど。誰にとっても関心が高い問題であることが窺える。

『ウチにテレビはありません』は、そんな受信料徴収問題を徴収員の視点で描いたコメディ漫画である。あらゆる手段で徴収から逃れようとする納入者同様、突拍子もない方法を用いて契約・徴収を試みる徴収員の物語。NHKの徴収員は委託契約した外部業者のスタッフである(2023年9月までに個人の委託契約スタッフを除き全廃予定)。志を持って徴収員を仕事としている者もおり、自らの正義の元に必死に徴収を行う。徴収員が主人公の物語は珍しく、新たな発見も多く、想像を超える徴収方法には思わず舌を巻く。

主人公の長州リヒトは、2年連続徴収率ランキング1位を獲得した、「MHK(国民放送協会・MINNANO HOSO KYOKAI)」の受信料を徴収する優秀な徴収員。

新人の種ヶ子純は、長州の下でその技術を学ぶことに。長州と種ヶ子はありとあらゆる方法で徴収を続け、多種多様な優れた徴収員と出会いながら着実に仕事を進める。そして、“受信料「払わない四天王」”なる達人たちに挑む−−―。

著:井上菜摘, 著:オクショウ
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何人たりとも逃れることのできない、華麗で大胆不敵な徴収術

スピーディーな展開と躍動感溢れるコマ割りが秀逸で、受信料を徴収するまでのテンポが良く実に快い。不思議と徴収員の立場に立って、スカッとしてしまう。セリフ量はやや多いが、美麗な絵柄とよく表現された豊かな表情のおかげであまり気にならない。特に納入者の余裕の笑顔から驚き、絶望へと次々に変化する表情の描き分けが素晴らしい。「自分だけは大丈夫」と高を括っていた者たちが失望の色に染まりゆく様は、まるでバトルシーンや高度な頭脳戦を見ているよう。表情の変化が少ない長州との対比も心地よい。

育ちや考え方の異なる多様な徴収人たちによる、多彩な徴収方法も見所。テレビ視聴を巧みに証明する者がいれば、情に訴える者、膨大な知識量で勝負する者、色仕掛けをする者、チームワークで挑む者……。どれもユニークで人間味に溢れており、実際にここまでされると払いたくなってしまうかもしれない。納入者にとっても徴収員にとっても、参考書となる1冊。

フィクションではあるが、自分の知らないところで本作のような攻防が繰り広げられていたらと考えると面白い。当然徴収員は情報を共有しているであろうから、実際に未払い期間が長く“受信料「払わない四天王」”のようなあだ名で呼ばれている人物はいるのかもしれない。 テレビのみならず「NHK放送を受信できる受信設備を設置した人」は必ず受信契約を結ばねばならない、試聴せずとも受信料を支払わねばならないなど、よく問題点として挙がる内容にも言及しているため、徴収員側がどう捉えているかを知ることができる。本作に触れ、NHKの契約および受信料の支払い問題を改めて考えてみるのも良いだろう。新たな学びがあるはずだ。

奇想天外な徴収方法に思わずクスクス。社会問題を気軽に読み解こう

『ウチにテレビはありません』は、『リアルアカウント』(講談社)の原作・オクショウ氏、漫画・井上菜摘氏による、あらゆる手段を用いて確実に受信料の徴収を行う徴収員を主人公としたミステリアスコメディ漫画である。2016年に秋田書店のコミックサイト「champion タップ!」にて連載され、既刊1巻、未完。

楽しく読めて少し考えさせられる、味わい深いコメディ作品。登場する徴収員たちは皆魅力的で、「徴収されたい」とすら思えるほど。劇団風やアイドル風に徴収する方法は、ぜひ真似てみてもらいたい。ドアホンのモニターに彼らのような人物が映ったら確実にドアを開けてしまうだろう。

本作の最後には、受信料に翻弄される長州の過去を描いた描きおろしがある。これは一体どういうことなのか、長州の真の目的とは何か。残念ながら本作は未完であり、続きの連載もない。果たして残されたミステリーが明かされる日は、残る四天王との熱い攻防を目にする日は来るのか……。本作を読んだ者であれば、続きが待ち遠しくなること請け合いだ。

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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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