“知らないままだとなんか無性にイライラする”――「知る」に満ちた図書館のお仕事を描く『税金で買った本』

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『税金で買った本』(原作・ずいの、漫画・系山冏/講談社)
目次

「何か知りたいことがあったからまた図書館に来たのでは?」ヤンキーくんは“図書館を必要としてる人”

「こちらの本覚えてますか?」。ある日、図書館へと足を運んだ石平くんは、貸出カードを作ろうとした際、対応した司書の早瀬丸さんに事務所へと案内される。聞けば、10年前に借りた動物図鑑が未返却のままで、弁償するまで貸し出しができないそうだ。代品を買ってこなければならない状況に、不貞腐れながら立ち去っていく石平くん。司書の白井くんは、その背に「何か知りたいことがあったからまた図書館に来たのでは?」と声をかける。

そして図書館の閉館後。帰り際に書店へと立ち寄った早瀬丸さんは、何かを忍び見る白井くんに気付く。視線の先には、書店の前をうろつく石平くんがいた。彼は白井くんの言葉から、初めて図書館で本を借りた時の、知識欲に突き動かされた経験を思い出していたのだ。やがて二人が見守る中、石平くんは弁償すべき動物図鑑を無事に購入。後日、また図書館を訪れた石平くんは改めて利用者となった後、なんとバイトとして働き始める。

著:ずいの, 著:系山冏
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「知る」が楽しいリアル図書館描写ד図書館コメディ”としての面白さ

暦が秋を迎える度、盛んに話題になる「読書の秋」。一説には、中国で唐代中期に活躍した文人・韓愈(かんゆ)が遺した「燈火稍く親しむ可く」のくだりで知られる「涼しい秋の夜は読書に適している」旨を記した詩を、明治時代の文豪・夏目漱石が『三四郎』の中で「燈火親しむべし」と引用し、ここから「秋=読書」のイメージが普及したという。

そんな読書に励むにあたって、誰しもに開かれている窓口といえば、まず思い浮かぶのが図書館ではなかろうか。その図書館だが、2022年8月にインターネット調査で行われた男女1000人を対象とする利用実態のアンケートでは、1年以内に図書館を利用していない人が約6割という結果が出た(株式会社ナビット「図書館の滞在時間は1時間未満?」 2022年10月27日参照)。

恥ずかしながら多数派に属する身としてしっくりきてしまったが、一方でここ最近、そんなご無沙汰な図書館への関心を再燃させるような作品が盛り上がっている。バラエティ番組『アメトーーク!』(テレビ朝日系列)などでも取り上げられた、図書館お仕事マンガの『税金で買った本』だ。

本作の主人公にして、知られざる“図書館のお仕事”の奥深さを見せてくれる切り込み隊長となるのが、外見こそ不良然としているものの、聞き分けのよい“根はいい子”である石平くんだ。物語はひょんなことから図書館を再び利用し始め、その上で新人バイトとして働き始める彼が、図書館員が接するさまざまな場面を体験し、知識欲を刺激されることで進んでいく。

原作を手掛けるずいの氏は、実際に図書館での勤務経験があるそうだ。それだけに、冒頭で描かれる「長期延滞した図書の弁償」をはじめ「本の修理」や「未返却ミス」など、いち利用者としては知りづらい図書館の情景描写はとても具体的だ。その一方で、仕事の内情を紹介するだけではなく、早瀬丸さんや白井くんをはじめとする個性的な登場人物たちの賑やかな掛け合いから、“図書館コメディ”としても読める面白さがあるのが飽きさせない。

「知りたいから本を開く」――誰でもいつでも触れられる「知る」があふれた図書館

「自分で調べてごらん。そのほうが勉強になるから」。石平くんは、幼き日に連れられた動物園でワニを見かけ、その生態について父に訊ねた際にこう言われたことが「初めての図書館」、「初めての本」のきっかけになったことを回想する。また白井くんは、石平くんに対し「知りたいから本を開く。一番純粋なほんとうの『学び』です」とも説く。

知らないことを知らないと言い、知ろうと動くことが、年を重ねるたびに億劫になるのが我々だ。しかし、石平くんのように「知りたい」と思いさえすれば、「知る」ための環境は常に開かれていると励まされる。久々に図書館へ行きたいと思わせる、学びに満ちた一作だ。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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