壮大な歴史ドラマ『ヴィンランド・サガ』に見るヴァイキングと北欧&イングランド

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ヴィンランド・サガ
『ヴィンランド・サガ』(幸村誠/講談社)

11世紀の北ヨーロッパで隆盛を誇った北海の民、ヴァイキングの生き様を作品化した歴史大河ドラマ『ヴィンランド・サガ』。リアルなヴァイキングの抒情的な物語が壮大なスケールで描かれる大人気作品を、今回は歴史的な背景から見つめてみましょう。

目次

“正しいヴァイキング”像を知らしめた作品

本作品の舞台となる11世紀ヨーロッパは、まさにヴァイキング全盛期。頭部全体を覆う兜に丸盾で防備し、大型の斧や剣を振り回す勇猛果敢なヴァイキングが、縦横無尽に駆け巡ります。

ちなみに、ヴァイキングの活躍を描いた児童文学作品『小さなバイキング』シリーズ(ルーネル・ヨンソン)も、ほぼ同時期の北欧が舞台。日本人が思い描くヴァイキングの基本像は、TVアニメ版『小さなバイキング ビッケ』が生み出したともいえるでしょう。

ただ、同作で印象的だった、動物の角を装飾した兜はフィクション。本作に登場するヴァイキングたちの兜に、角はありません。細部まで丁寧に描き込まれた防具や武器は、キャラクターごとに個性あふれ、作者の緻密な歴史研究が伺い知れる一面でも。その意味では、初めて(日本に)“正しいヴァイキング”像を知らしめた作品ともいえそうです。

作品名『ヴィンランド・サガ』が物語る歴史観

『ヴィンランド・サガ』の作品タイトルにも、意味深さが感じられます。

ヴィンランドとは、「ブドウの地」を意味する言葉。小麦とブドウが実る豊かな大地で、現在のカナダ・ニューファンドランド島とする説が有力です。

ヴィンランドを発見したとされるのが、本作にも交易商として登場するアイスランド人のレイフ・エリクソン。探検航海で船を西に進め、カナダに到達したとされます。

レイフが育ったグリーンランドも、ヴァイキングが発見した地。北欧から海に乗り出したヴァイキングが西を目指し、グレートブリテン島(イギリス)を越えてグリーンランドから北米へ。コロンブスの新大陸発見より500年も前に、ヴァイキングは北米まで足を延ばしていた……そう考えると、壮大な歴史ロマンに心が躍ります。

作品序盤では“冴えない商人”的なレイフですが、やがて物語のキーパーソンとなっていきます。アイスランドの教会に銅像が建ち、アメリカでは毎年10月9日が「レイフ・エリクソン・デー」(レイフが北米大陸に到達した記念日)として祝されるなど、実は史実でも高名な人物なのです。

一方“サガ”は、古アイスランド語で神話期~中世に描かれた、北欧の散文作品群を総称する言葉。ノース人(ヴァイキングを含む古代スカンディナヴィア人)の言語「sayer」(=言う)に由来し、ノルウェーやアイスランドで伝承されてきた、ヴァイキングの英雄伝説も数多く残ります。

ちなみに、ファンタジー小説やゲームなどで目にする「サーガ」も、語源は“サガ”だったりします。

北欧&ヴァイキングの壮大な歴史観が、『ヴィンランド・サガ』のタイトルに込められていることがおわかりでしょうか。作者の熱意が、作品名からも伺い知れるわけで。

ヴァイキングの基本理念「ノルマン戦士の誉れ」

物語序盤~中盤では、アイスランドで生まれ育った主人公・トルフィンの生き様を通し、ヴァイキングとアイスランドの歴史~イングランド侵攻が描かれます。

デーン人(デンマーク人の祖先とされる北方系ゲルマン人)がノルウェーからアイスランドに進出した流れ、ヴァイキングのイングランド侵略、デンマークとイングランドの戦争……。壮大なスケール感を伴う北ヨーロッパの歴史ドラマに、読み手は圧倒されることでしょう。

中盤はイングランドが舞台となりますが、デンマークに侵略・蹂躙された歴史は、表舞台では目にすることが少ないもの。ローマの侵攻を阻止し、百年戦争でも負けなかった(と自負する)誇り高き大英帝国にとって、史上唯一の惨敗劇は封印したい黒歴史なのかもしれません……。

このあたりは『消えたイングランド王国』(桜井俊彰/集英社)など、イギリスの歴史書と併読しても面白そう。物語前半で奇異なキャラを際立たせるトルケルが、史実に登場するヴァイキングだともわかりますよ。

本作でトルケルは、「ノルマン戦士の誉れ」を語ります。

天界で戦士の館(ヴァルハラ)に住むことを許されるため

いかに戦い、いかに死ぬか

敵は、強ければ強いほどいい

読み進むうちに浮かぶ素朴な疑問「連中はなぜ、ここまで戦うのか」への回答が、このヴァイキング基本理念に込められているとも。

物語前半の中心人物・アシェラッドを通して描かれる、イングランドとウェールズの関係性にも奥深いものがあります。現イギリス連邦が抱える諸問題の根底も、当時の背景から垣間見えてきそう。

複雑なイギリス史を丁寧な描き込みで読ませる味わいは、歴史漫画としても秀逸です。北欧人のゴツい雰囲気とマッチする、漫画調と劇画調の中間的な作画もポイントに。

逆に、歴史系大河ドラマにありがちな作風や作画のくどさは、不思議なほど感じられません。疲れず素直に読み進められて、読後感はしっかり残る。この計算され尽くした好バランスも、作品の大きな魅力となるはず。

本作品にはアニメから入った方も多いでしょうが、2023年1月からスタートしたTVアニメ第2期では、原作コミックの中盤以降にあたる、トルフィンの成人後が描かれます。原作では成人編から作風がやや変わるため、好みが分かれる面も否定できませんが、果たして……?

著:幸村誠
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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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