『光の箱』――生と死が混在するコンビニで紡がれる物語はユーモラスとビターな味わいがほどよく調和した秀作

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『光の箱』(衿沢世衣子/小学館)
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読者を引きつける不思議なドラマがクセに

コンビニエンスストアは、多くの人にとって街中にある何気ないショップのひとつだと思う。では、コンビニが実は生と死の狭間に存在する空間だったら……。本作の舞台となっているコンビニは、いわゆる「三途の川」的な場所の比喩として描かれている。なぜコンビニかというのは、実際に物語に触れてみるとよくわかる。

コンビニに立ち寄る際、飲み物を買う人、どのおにぎりを通うか迷っている人、今でこそだいぶ減ったが立ち読みをしている人など、目的はさまざまだ。悩んだ末に、そのまま商品を購入する人(=三途の川を渡る人)もいれば、何も買わずに出て行く人(=現世へと帰還する人)もいる。

つまり、コンビニに滞在している時間を生死を分かつタイミングとして表現しているのだ。いかにもではあるものの、何とも現代チックな見せ方でわかりやすくて良い。後にコンビニの向かい側にある書店の存在も明らかとなる。「立ち寄りたい場所がコンビニと限らない」という説明が、また何とも言えない味わいを醸し出している。

著:衿沢世衣子
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独自の世界観が刺さるテイストが醍醐味

エピソードをまたいで登場する“魔の人々”ほかレギュラーのようなキャラクターがいる本作では、各話で“主演”を務めるのはコンビニを訪れる人で、オムニバス形式により来訪者の人生や日常を描いていくスタイルをとっている。

独特なタッチの絵柄やユーモアを交えた描写は読みやすく、派手さはないが不思議なテイストで奥へ奥へと、深く引き込んでくれる。またどこか優しさも感じさせてくれる雰囲気を漂わせているのだが、そこは生と死の狭間にあるコンビニが舞台なだけあり、味わいは少し苦みが利いているのも特徴だ。

訪れた人がそのまま死へ向かうどうかは、その人次第であり、仮に生きる方向に舵を切れたとしても全員がハッピーになるわけでもないのも痛烈だ。ファンタジックな中にもリアリティを混ぜ込んだ描き方こそが本作の醍醐味であり、読者を引きつけてやまない魅力になっていると考えられる。

何度も読み返したくなる発想&構成が光る

本作には謎の“店長”がコンビニを訪れた人、すなわち死の間際にある人に「労働」か「死」かの選択を問うシーンがあり、本作らしさが感じされる表現のひとつとなっている。淡々とした表情からはえもいわれぬ存在感があふれ、唯一無二な世界観を生み出している象徴的なキャラクターと言えるだろう。このやりとりを見ていると、現実世界でセルフレジ導入が進む中、もしも本作のコンビニも……と想像してみると、何だか複雑な思いにとらわれてしまう。

テーマ的には人の生死を扱っているため、物語はどちらかというとヘビーになりがち。その中間の位置する存在としてコンビニを選んだという発想が、本作の勝因だろう。重さを払拭するだけでなく読者もイメージしやすくなるし、ほどよい脱力感も生まれてくる。

光と闇が交錯する本作はまさに現代的で、秀逸なアイデアとストーリーテリングの巧妙さが際立っている。多くの人々の思いや行動を自分と重ね合わせつつ、どんどん新たなエピソードが読みたくなるし、何度も読み返したくなる。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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