「みんなが笑って前に進んでいく」青春スクールライフ『ホリミヤ』の魅力

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『ホリミヤ』(原作・HERO、作画・萩原ダイスケ/スクウェア・エニックス)

“甘くて切ない超微炭酸系スクールライフ”と銘打たれた『ホリミヤ』は、Webコミック『堀さんと宮村くん』(HERO/スクウェア・エニックス)から派生した、コミックのコミカライズという珍しい形態作品。恋愛と友情が織りなす、何気ない日常なのに何かがありすぎる日々……そんな高校生活の楽しさや重みが、多くの方から共感を呼ぶ物語なのです。

目次

誰もが秘める“他人に見せない一面”を共有したふたりは……

共学校の3年1組を舞台にした物語は、ヒロイン・堀さん(♀)の日常から始まります。

文武両道・容姿端麗、スクールカーストでも最上位クラスに位置する堀さんですが、本人はいたってフツーの、マジメな女のコ。世渡り的に軽いギャル風を振舞うものの、両親が共働きの家では家事全般をこなし、友達とも遊ばず幼い弟の面倒を見る日々。スーパーのチラシで見つけた卵特売セールに、学校帰りにダッシュしようと必死な17歳だったり。

委員会の仕事でセールに行けなくなった堀さんから「卵よろしく」(買ってこい!)メールを受け取り、スーパーで卵を3パックも買ってきてくれる宮村(♂)は、本作のW主人公のもうひとり。学校ではボサボサ長髪とメガネの地味ヲタ系・陰キャラを装いつつ、実は9個も開けたピアスや刺青など自身を隠している謎男子。

ひと昔前ならツンデレ代表格だった“ドS系”(=相手を思いやる心の裏返し)な堀さんと、超天然(=鈍感すぎる優しさが攻撃的)で曲がったことが嫌いな宮村。誰もが秘める“他人に見せない一面”を、ひょんなことから共有するようになったふたりは、付かず離れず……な関係から、徐々に距離感を詰めていきます。

宮村視点の堀さん、堀さん視点の宮村が織りなす、巧みなキャッチボール。お互いの姿を鏡に映しながら、そこで気づかされる“もうひとりの自分”と、“そうなって欲しい自分”“そうでありたい自分”の葛藤。そんなふたりの関係性に、読み手は知らず知らずと引きずり込まれていくのです。

“他人に見せない一面”だからこそ気づいて欲しい

人知れず頑張っている自分を、本当は褒めて欲しい、気づいて欲しい。そんな堀さんの心を貫くように、言葉と態度の剣をストレートに突き刺してきた宮村。

自分を他人に見せる不安や恐怖から、自らの世界に引きこもっていた宮村。抜け出そうともがいていた闇を、堀さんは思い切りブチ壊してくれた。

ふたりが互いを必要とし、惹かれていく様は、もはや必然だったのかもしれません。

耳掃除や肩叩きなどが“打撃系”“粉砕系”扱いされてしまう堀さんのパワフルさ、家庭的で優しく温厚な宮村という両極端なキャラ(=二面性)も、お互いの存在を無視できなくなるカギに。ない者同士の凹凸が完璧に組み合わされば、最強のコンビが完成するわけで(笑)。

読み手の共感を呼びまくるふたりの関係性には、もはや脱帽するしかなく。Webコミック『堀さんと宮村くん』から派生した作品だけに、慣例的かつ商業主義的な“引き”や“お仕着せ”ではない、純粋な作風が生み出した奇跡なのかもしれません。

読者が漫画に求めるものとは……。そんな壮大なテーマを思い浮かべるほど、心の片隅をさりげなくツツいてくる。その加減がまた、絶妙な作品だったりもします。

一方で、群像劇にありがちな感動秘話や涙、悲壮感などは、ほとんど感じさせません。読み手の心を抉るような手法は用いず、「みんなが笑って前に進んでいく」物語に徹する。これこそ、『ホリミヤ』最大の魅力ではないでしょうか。

「こいつらの羨ましすぎる関係」に嫉妬しちゃう物語

この“みんな”には、堀さんと宮村を中心とした3年1組の仲間たちも大きく関与します。相関図を作れるほど迷走模様な恋愛・友情関係は、男子校・女子校育ちの方には羨ましすぎるかも……。(筆者もそのひとり)

告白や失恋を経験しながらも、カップル成立は堀さん×宮村の他にひと組だけ。でも、彼らの友情関係は壊れずに続いていきます。みんな“いい奴”ばかりで、ちょっと泣けてきたりも。(だから羨ましい!)

そう、「こいつらの羨ましすぎる関係に嫉妬しちゃう」感もまた、本作品の大きな魅力なのです。こんな高校生活が理想、こんな高校生活を送りたかった……と、誰もが思うわけで。

もちろん、基本作画レベルの高さ、各キャラが魅せる表情の豊かさ、コミカルさも交えながら場の空気感がリアルに伝わる表現手法&コマ割りなど、漫画としての資質も高水準。作り込み重視な集英社系や講談社系とは異なる、スクウェア・エニックス系の自然体な作風も、功を奏しているのでしょう。

ちなみに、コミック版もアニメ版も、『ホリミヤ』は卒業式で最終回を迎えます。「仲良しのみんなは卒業しても変わらない」「君が(あなたが)隣にいてくれるだけで嬉しい」気持ちが伝わってくる名作回でしたが、原作の『堀さんと宮村くん』では、その後のふたりも描かれています。『ホリミヤ』でもそれとなく感じさせた、あの展開・結末で……。

まぁ、あのふたりが結婚してくれなきゃ、怒りますよね(苦笑)。

著:HERO, 著:萩原ダイスケ
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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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