『she is beautiful』――少女の記憶を巡るミステリアスなストーリーは謎の供給テンポ&回収タイミングのバランスが秀逸

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she is beautiful
『she is beautiful』(原作・江坂純、著者・凸ノ高秀/集英社)
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魅惑的な謎を大量投下しつつも読みやすさ抜群

ある朝、目が覚めると、いきなり14年も年月が経っていたら。しかも、眠るたびに記憶がリセットされると聞かされたら、あなたならどうするだろうか。

記憶を扱ったエンタメ作品は数多くあり、本作もそのひとつに名を連ね、世界の謎と彼女の謎に迫る物語が描かれていく。集英社青年コミック誌の「賞金総額最大1億円40漫画賞」内の「アニメ1クール分プロット漫画賞」部門で最高評価作に選ばれた作品で、近未来ミステリーと銘打たれている。

主人公の10歳の少女・くるみが暮らしているのは、「箱庭(ファミリエ)」と呼ばれる研究施設。くるみも含めた10歳になる女の子30人ほどが、すべてが管理された世界で共同生活を送っていた。10歳を迎えると同時に将来の進路を決める「組み分け」で、大好きな光里(ひかり)と同じ組み分けになることを夢見るくるみ。組み分け発表を控えた前日、光里と共に眠りについたくるみだったが……という流れで、主要なキャラクターや物語の世界観を説明する。手際とテンポの良さがいい。

著:江坂純, 著:凸ノ高秀
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記憶に関するギミックも二転三転で先読みさせない

目を覚ましたくるみは、自分の体の成長や年月の経過、自身が記憶障害を負ったことを聞かされ驚く。しかも14年間、自分を支えてくれていたのが清香(さやか)であることにも衝撃を受ける。というのも10歳当時の清香は、優等生で少し嫌みっぽい発言をくるみにしていたからだ。主人公の記憶に問題がある場合、そのパートナーは重要。本作では、目覚めたときに一緒にいる相手が光里ではなく、子供の頃はちょっと意地悪で苦手と感じていた清香であるのも興味深い。

ここまでがエピソード1で描かれるのだが、この時点でも「箱庭(ファミリエ)は何のための施設なのか」「くるみたちに親がいないのはなぜ」「子供が3年おきに生まれる理由は」「10歳で組み分けを行う目的は」など、数多くの謎が散りばめられている。

しかも謎に対して、例えば「みんな『箱庭(ファミリエ)』の研究施設で産まれ育ちました」のように、ところどころヒント的な要素も見せているのも悪くない。そのすべてを知りたくなる欲求に自然とかられてしまう。

また、こちらも記憶ものでは定番の仕掛けである、記憶を保っているときの自分からのメモも登場。その出し方や内容もお見事で、序盤からここまでハイペースで大丈夫なのだろうかと、いらぬ心配をしてしまうほどスピーディーな展開で引きつける。

伏線と回収のスピード感が読む手を止めさせない

1巻終盤で街中に1人で来たくるみは、ある婦人と出会うのだが、ここで予想外の事態に直面することに。使い古された表現ではあるものの、謎が謎を呼ぶストーリーは一筋縄ではいかず、誰を、何を信じればいいのかが、局面、局面でオセロのようにひっくり返る。ハラハラさせられるが痛快だ。プロットが高評価を得たのもうなずける。

現在2巻までが発売され、くるみらの存在にまつわる秘密が明らかになり、気になる新たなキャラクターも登場。徐々に世界の構造が見えつつあるものの、肝心な部分は謎に包まれたままである同時に、2巻のクライマックスもその先が気になる見事なヒキとなっている。

次々と小気味よく謎を供給しつつ、タイミングを見計らって少しずつ解明していく。読み始めると続きが気になり、一気に読みたくなってしまう。絵のタッチの美麗さも、サスペンスフルな本作にはぴったり。「アニメ1クール分プロット漫画賞」部門の作品だけに、アニメ化にも期待したいところ。

今後くるみがどのような運命をたどっていくのか。世界に隠された秘密は何なのか。そしてタイトルの『she is beautiful』とは。各要素がどう回収されていくのか楽しみでたまらない。

著:江坂純, 著:凸ノ高秀
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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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