『ファインダー―京都女学院物語―』切り“撮”られたその一瞬が繋ぐもの……『こち亀』作者の「京アニ」愛あふれる青春物語

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『ファインダー―京都女学院物語―』(秋本治/集英社)


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「ネコの写真を撮れると思って入部したのに…」“ふんわり”4人組のファインダーが写す青春

「死になさい! 彼方達!!」。京都の郊外・亀岡市にある京都女学院高等部。夏休み前、校長による炎天下での長い講話を乗り切った写真部の部員たちは、続けざまに部長の鈴による暑苦s……熱のこもった訓示を受けていた。アマチュアフォト展に部員のだれ一人入賞しない。自分と副部長は今回も金賞を取っている。部長の憤りの矛先は、「ネコの写真を撮れると思って入部した」2年生の仲良し4人組である鷹弧、鈴芽、千鳥、燕へと向けられる。

「夏の全国高校生写真大会にはぜったいに入賞すること!!!」――“ゲルダたろー”なる女性戦場カメラマンを崇拝し、好むのはモノクロの戦場写真という“ヘビー”な部長。部のカメラを壊したと話す4人組の、軍用にも耐えうる「トプコン」の性能に疎い様子にもおかんむりだ。

「あっ祭り太鼓の音!」。いっぱしの活動実績を残すよう厳命された4人組だが、その帰り道であっけらかんと話題にするのは出雲大神宮のお祭りのこと。彼女たちの夏が始まった。

著:秋本治
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『響け!』や『けいおん!』の京アニが好きで……『こち亀』秋本治による“女子高生×部活”もの

4年ぶりの完全新作となった中編アニメが夏に劇場公開され、NHK Eテレで2024年4月からの放送が決定したTVアニメ第3期に関する新情報の発信が相次いだ。2023年の盛んな動向に沸き立ったファンは筆者だけではないだろう。アニメーション制作会社の“京アニ”こと京都アニメーションが手掛ける、高校吹奏楽部の青春を描く人気作『響け! ユーフォニアム』(武田綾乃/宝島社)シリーズだ。先の事件を経て、当初は見通しが不透明だった同シリーズが、本格的に再始動中なのだ。

『ファインダー―京都女学院物語―』はそんな『響け!』シリーズを意識したという、「カメラ」を題材に“女子高生×部活”の組み合わせを描いたマンガだ。作者はあの『こち亀』こと『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社)の秋本治。“京アニ好き”を公言する秋本が、こちらも同スタジオによる作品である“女子高生×軽音楽部”のアニメ『けいおん!』(かきふらい/芳文社)さながら、「ふんわりした女の子」を描くことに挑んだ。その代表作とのギャップに驚かされる一作だ。

発表時期は2016年に連載が終了した『こち亀』後である、2017年から2018年にかけて。秋本が描く女性キャラといえば、『こち亀』の秋本・カトリーヌ・麗子に代表されるように“セクシーなお姉さん”然としたビジュアルを想起しやすい。だが本作ではその執筆動機どおり、京アニを感じさせるような“かわいい”を重視した雰囲気の女子高生たちが主人公に据えられた。鷹弧、鈴芽、千鳥、燕の、“ふんわり系”がいたりお調子者がいたりクールなツッコミ役がいたりという絶妙なバランス感は、なるほどたしかに『響け!』や『けいおん!』に通じている。

とはいえ、そこは強烈な作家性のにじむ『こち亀』の秋本。京アニリスペクトの「ふんわり」で終わらないのがならでは見どころだ。まず一見して分かるのは『こち亀』そのままを思わせるような情報量、つまり“知識ネタ”だろう。主人公4人組は意図して“部活エンジョイ勢”に描かれているものの、その掛け合いはふんわりしつつも各所で“身”が詰まっている。

特に主題のカメラについては、冒頭で触れた“熱い”部長はもちろん(「戦場カメラマン志望の先輩」はいかにも『こち亀』作者らしい造形だ)、秋を描く第2話で活躍する副部長の先輩(こちらはいかにもなお嬢様キャラだ)らが語る語る。作中、最初にスポットされるカメラがキヤノンやニコンのものではなく「トプコン」なるメーカー製というのも、カメラに明るくない読者でも思わずニヤリとしてしまう。第178巻所収の「フィルムカメラマンの巻」をはじめ、『こち亀』でも数多見られる“カメラ回”からも伺える秋本の偏愛ぶりが遺憾なく発揮されているが、恐らくはこれでも“作品に合わせて抑えた”と見るべきだろう。カメラについては学ぶ立場である4人組の視点に、本作ならではの“知識ネタ”の温度があるのだ。

そして「さすが『こち亀』作者」と思わせられるのは、やはりギャグではないかと思う。あまりに強烈なキャラを誇る部長の“入場シーン”の天丼ネタぶりは、『こち亀』のいわゆる「大原部長オチ」リスペクトか。ちょい役にしてはクセが強すぎる校長や4人組のクラス担任らは、いかにも『こち亀』にいそうな“変なオッサン”で、見るだけで笑ってしまうはずだ。

ストーリー進行における笑いどころでは冬を描く第3話における、部長から出された「冬休みの課題」に関する4人組の行動を挙げておきたい。怒られないように苦肉の策を講じるのだが、これがまた、京アニが描く女子高生にはまず思いつかない『こち亀』の主人公・両さんのような内容なのだ。筆者は思わず声を出して笑ったくだり、ぜひ読み進めて確かめてほしい。

切り撮られたその一瞬一瞬に残り、伝わるものとは 繋がっていく青春の輝き

前述した『響け!~』の中編アニメ『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』の中で、ひとつ本稿に引っ張っておきたいものがある。そのオープニング映像に見られた、吹奏楽の定番曲「OMENS OF LOVE 」にのせての写真を効かせた部内の描写だ。

いかにも記念写真然としたものではない、なんでもない写真が多く流れるのが“良さ”で、特に最終盤には胸がこみ上げるものがある。流されがちな主人公の久美子が属する“低音パート”メンバーの歴代写真が時系列順に映るのだが、その一歩引いた佇まいだけは変わらない久美子が、年次を重ねるごとに中心に寄っていく。中編アニメでの時間軸、最新にあたる3年生時の写真では、内面が成長し部長になった久美子が姿勢はそのまま、中央で控えめにピースするのだ。シリーズを追ってきた身としては、その姿はつい涙腺に来てしまう。

切り撮られたその一瞬一瞬に残るもの、そしてそれだけで伝わってくるものは、あまりにも多い。かけがえのない青春のひと時を描く題材として「カメラ」を選んでくる慧眼は、さすが現代社会の酸いも甘いもそのまま切り“撮って”きた『こち亀』作者たるものだろう。

春を描く第4話で完結する本作は、部のフィルムカメラに残るかつての在校生たちの青春の一枚に感動した写真部の後輩たちが、卒業してゆく4人組からバトンを託されるところで幕を閉じる。京アニ愛を感じさせつつも作者らしい味のある、爽やかな感動を残す短編だ。

著:秋本治
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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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