なぜか「小栗旬が夢に出てきた話」を思い出した『わたしの夢が覚めるまで』

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『わたしの夢が覚めるまで』(ながしまひろみ/KADOKAWA)

本とコミックのポータルサイト「ダ・ヴィンチWeb」で連載されていた21本の漫画に描き下ろし3本(24ページ)を加え、2023年5月18日にKADOKAWAよりオールカラーで書籍化された、イラストレーター・ながしまひろみ著『わたしの夢が覚めるまで』。主人公は、不眠症ぎみで夜中の3時に目が覚めるようになってしまった38歳、ひとり暮らしのOL「その」。夢と現実の境界線があいまいになるなか、自分と同じ38歳で早逝した叔母の「さき」が夢に頻繁に出てくるようになる。母からは「事故で亡くなった」と聞かされていたのだが、夢のなかで本当の死因を本人から知らされ、叔母と同様、都会でひとり暮らしをしている我が身と重ねてしまう「その」の心理描写が秀逸だ。

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「夢」は無意識(潜在意識)の表れであるとは聞くけれど……

夜見る「夢」は「無意識(潜在意識)」の表れであるとドイツの精神分析学者、ジークムント・フロイトも提唱しているが、筆者は子どもの頃から見ず知らずの人が夢のなかに出てくることが不思議で仕方なかった。きっと街や電車ですれ違ったことがあり、無意識のうちに自分の記憶にインプットされていたから出てくるだけのことだとは思うのだが、朝目が覚めてから「夢のなかですごく親しく話していたけど、あの人はいったいどこの誰なんだろう?」と、ボーっとする頭でしばらく考えることも多かった。

なかには単純で分かりやすい夢もある。ある日、俳優の小栗旬を取材している夢を見た。当時、相当追い詰められていたせいなのか、夢のなかで数十分間小栗旬に話を聞いたあと、本人から「これ(ICレコーダー)回ってないみたいだけど、大丈夫?」と録音できていないことを指摘され、「えっ!?」と血の気が引く……という、いま思い出しても背筋がゾッとする悪夢だった。

夢のなかの小栗旬は、あり得ないミスを笑って許してくれたのだが、なぜそんな夢を見たのかと考えてみると、寝る前に彼が出演するトーク番組をたまたまテレビで見ていたせいであり、「こんなに気さくな人なんだ」と、勝手に好印象を持ったからだと思う。ちなみに、その後現実世界でも小栗旬を取材する機会に恵まれ、「あれを予知夢にするわけにはいかない!」と、入念にICレコーダーの電源を何度も確認してから臨んだものだ。

当時コロナ禍でアクリル板越しの取材だったため、小栗旬が気を利かせて「レコーダーを(アクリル板の)こちら側に置きましょうか?」と声をかけてくれたのだが、「実は以前、小栗さんを取材する夢を見たことがありまして……」「夢のなかでも小栗さんは神対応でした……」と、夢の顛末を話したところ、本人に「アハハハ(笑)」と笑い飛ばされた。

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27回忌を前に、夢のなかで酔っ払った叔母が口にした本当の死因とは……?

……と、思わず話が脱線してしまったが、夢と現実のつながりは不思議なもので、まるで「神様のお告げ」のように、思いがけず夢のなかで真実を知ってしまうこともある気がする。本作の「その」も、夢のなかで酔っ払った叔母の「さき」から「わたしね、自分で死んだの」と笑顔でいきなり告げられ、「えっ!?」と驚いて目が覚め「朝まで眠れなかった……」という事態に襲われる。

奇しくも「さき」の27回忌の法要で実家に戻る前だったこともあり、思い切って「その」は自身の母親に「あのさ、さきちゃんって事故で亡くなったんだよね?」と真相を確かめてみようと試みるのだが、「え? そうに決まってるでしょう……お母さんね、まだ思い出すとつらいのよ。だから変なこと言わないで……」と、かわされてしまう。

その後「その」は法要で「さき」の親友だった女性と知り合い、東京に戻ってきて彼女と再会するのだが、そこで「さき」が亡くなった日のことを聞かされる。幼い頃の「その」にとっては憧れの女性でもあった「都会に住む独身の叔母さん」の「さき」が、実は人知れず孤独を抱えていたこと。自分もあの頃の叔母と同じように、ひとり都会で気楽に生きていけるものだと思い込んでいたが、仲の良かった友だちが田舎に帰ってしまったことで、正直少しさびしさも感じていること。そして最近あまり眠れていないこと。そんなこんなで、ちょくちょく「怖くないお化け」のように夢に出てくる叔母の人生と、いまの自分の境遇をなんとなく重ねてしまう「その」の姿に、切なさを感じずにはいられなかった。

自由で幸せそうに見えた「さき」は、なぜ自ら生きることをやめたのか。「死なないように生きるんじゃなくて、よく生きて死ぬにはどうすればいいんだろう」「ひとりで生きていくのはお金と健康と事情が許せばとても簡単」「でも自分だけのために生き続けるのは難しいのかもしれないな……」と、自問自答を繰り返す「その」の夢の中にふたたび「さき」が出てくるのだが、「意外としぶとい」ふたりのやりとりに微かな希望が感じられ、ちょっぴり救われる。たとえそれが「どうか現実もそうであってほしい」という「その」の願望だったとしても、せっかく見るなら悪夢より、どこまでも自分に都合の良い夢を見続けたい。

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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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