ゆったり感と知的好奇心くすぐる自由度の高い作風
日常系でありながらも非日常系。『やがて君になる』(KADOKAWA)で知られる仲谷鳰が手がける『神さまがまちガえる』(KADOKAWA)の初見は、まさにそのような印象。相反するようなテイストが同居し、何とも言えない絶妙な空気感を醸し出している。
本作の主人公は男子中学生の綿矢紺。フリーターの石橋恒成、大学生の伊与田英、会社員の円子飛鳥、大家の姫崎かさねらとシェアハウスで暮らしている。基本的には彼らが過ごす日々の暮らしぶりにスポットが当てられて物語が描かれていくため、やはり日常系マンガというイメージを持ちやすい。
ところが、彼らが暮らす世界には“バグ”(※作中でいう「周期性例外事象」のこと)が満ちあふれている。そんな特殊な状況により、本作は表向き、日常系という印象を与えながらも、実はファンタジックで不可思議な魅力で楽しませてくれるのだ。
奇妙な現象と関わる人々の描写が心地良い人
作中世界で発生する“バグ”の内容は、日々変化しているのも特徴のひとつ。いくつか例を挙げると、「街がジャングルになっていた」「右を向いたら左を見ていた」「いつもの階段が一段増えていた」といったように、とにかくバリエーション豊かな現象が起きている。
かさねは“バグ”の研究をしており、紺はその助手を担当。とはいえ、いかにも小難しい研究論を繰り広げているのではないのは読みやすさのポイントだ。かさねが研究している対象は、“バグ”の影響を受けた人間の行動というのも興味深い。
「わからないこと」に興味を抱き、観察し続ける行為ですらも心の底から楽しむようなそぶりを見せる。彼女の「わからないものを わかろうとすることを 止めてしまったら おしまいさ」というセリフは、素直に心に刺さる。
キャラクターも世界観も考察要素もすべてが絶妙
本作ではある意味、事象が“主役”という役割を担っているだけに、キャラクターの重要度は低めに見積もってしまう人もいるかもしれない。ただ、もちろんそんなことはなく、世界で唯一“バグ”の影響を受けないかさねを中心に、シェアハウスで暮らすメンバーが、日常と非日常を見事なまでに巧妙なバランスで橋渡しをして、作品の奥行きと奥深さを生み出している。
また、紺が中学生であり、シェアハウスに加えて学校が舞台になるエピソードも盛り込むなど、さまざまな趣向を凝らしてきているのも好印象。1エピソードに1“バグ”というシンプルさも良い。
世界観は共通しているが、エピソードごとにテイストが異なり好奇心をくすぐられる。1話で読み切れるスタイルも、いつでもどこからでも読めて◎。もちろん継続して読むことで、より本作の世界観に浸れるのはいうまでもない。しかも2巻を読み終えたとき、読後感はすがすがしくも、世界の見え方や感じ方の変化にきっと衝撃を受けるはず。気になる3巻は2023年6月27日発売だ。
世界の裏側を深読みや考察もできるし、“バグ”に満ちた不思議な世界を純粋に楽しむのもOK。ひとまず紺&かさねと“バグ”を楽しんでみてほしい。