『球詠』萌え系の可愛らしさなのにガチで骨太な野球漫画

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『球詠』(マウンテンプクイチ/芳文社)

ここ数年で大きな盛り上がりを見せる女子高校野球を題材に、萌え+ガチなスポ根をリミックスした骨太野球漫画『球詠』(芳文社「まんがタイムきららフォワード」連載中)。ヲタク漫画系に思われがちながら、野球経験者層からも幅広く支持される作風は、野球好きなら読むほどにハマること確実!?

著:マウンテンプクイチ
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女子野球の叙情的な一面が生かされた作品

女子高校野球は、2021年から夏の全国高校女子硬式野球選手権大会決勝戦が男子と同じ阪神甲子園球場で行われるなど、メディアでも取り上げられる機会が増えてきました。2023年も、男子の選手権大会開幕前に甲子園で決勝が開催されることになっています。

そんな女子高校野球を題材にした漫画も生まれていて、中でも元祖的な、女子高校野球漫画の中核をなす作品が『球詠』です。タイトルの読み方は「たまよみ」。「詩歌・俳句などを作る」意味を持つ「詠む」は、本作の叙情詩的な作風を象徴しているようにも感じます。

女子高校野球を扱う作品は近年こそ増え始めましたが、ほんの10年ほど前までは、話題になることもほとんどありませんでした。

エンタメ作品化も、90年代後半のPC用ゲーム『ドキドキプリティリーグ』(エクシング、女子野球部員の育成恋愛SLG)以降、ほぼなかったのでは。そうした意味でも、2016年から連載が始まった本作は金字塔的なタイトルといえるでしょう。

まだまだこれから、発展途上な女子高校野球に関心がある方にも、ぜひお勧めしたい作品なのです。

ヒロインの魔球には“あの名作ヒーロー”も真っ青!? 

本作の主人公(ヒロイン)は、埼玉県の新越谷高校に入学したばかりの武田詠深。中学ではエースだったものの環境に恵まれず、大会も1回戦負け。「制服で選んだ」高校で、野球を続ける気は……。

という基本設定ながら、第1話から野球の話が全開になっていきます。

いきなり隣の席に女子野球経験者が!? そのコが教室で「週ペ」(週刊ペナント/週刊ベースボール的なもの?)を読んでる!? しかも野球好きな双子!? 高校で再開した幼馴染が、有名な捕手に成長していた!?

ご都合主義的な展開が急すぎて、思わず「はぁ?」なのですが、不思議と嫌な印象が湧かない理由はキャラの可愛らしさ故でしょうか。

芳文社の『まんがタイム きらら』系作品だけに、キャラの萌え可愛さは折り紙付き。そのコたちがキャッキャッウフフな野球スローライフを送る様は、『けいおん!』(かきふらい/芳文社)など“きらら系”に代表される作風なわけで。

他社作品で例えるなら、女子高生たちによる麻雀漫画『咲-Saki-』(小林立/スクウェア・エニックス)の野球版といったイメージも。ストイックさと可愛らしさ、相反する要素を巧みに融合させた作風には、かなり近い印象を受けます。

ただ、そこに盛り込まれる野球要素は濃厚なもの。

例えば、詠深が中学時代、捕手が取れないからと封印していた“あの球”。ビーンボール(頭部への死球)のコースから一気に曲がり落ち、ストライクゾーンをえぐる球筋は、星飛雄馬(『巨人の星』原作・梶原一騎、著・川崎のぼる/講談社)や番場蛮(『侍ジャイアンツ』原作・梶原一騎、漫画・井上コオ/集英社)、宇野球一(『アストロ球団』原作・遠崎史朗、画・中島徳博/集英社)らも真っ青になりそうな魔球っぷり。

奇想天外な野球漫画? と思われるかもしれませんが、話の本筋は、野球好きが読んでも「うんうん」と納得する正統派作品です。

第1話のタイトル『あの魔球を、もう一球』からして、野球ノンフィクション作品の名著『スローカーブを、もう一球 』(山際淳司/KADOKAWA)をもじったものでしょうから……(推察)。

真摯に「野球が好き」な想いを受け止めたい 

かつて名門強豪校だった新越谷高校・女子野球部は、不祥事から活動休止中。

『ROOKIES』(森田まさのり/集英社)を彷彿させる設定ですが、このテのスポーツ漫画は、部員集めや部を存続させる苦労話に物語序盤を費やすのは、定番の流れです。

が、本作では簡単にメンバーが集まり、すぐに「野球しよう!」。この潔さよさが、野球漫画の面白さに没頭できる作風を生み出しているとも。あまりにテンポが良すぎて、展開に付いていくのが大変かもしれませんが……。

さまざまな経緯を経て集まったチームメイトたちは、真摯に野球が好きなコばかり。女子高校野球の試合を見ていて感じる「みんな野球が好きなんだな」との想いが、物語からも伝わってきます。

一方で、誰かが守備練習でミスると、連帯責任で全員がバーピージャンプ10回……なんて鬼練習ぶりはスポ根そのもの。このコたち、ガチで野球やってます。そこから生まれた連帯感や精神力が公式戦で発揮される様も、野球漫画の王道といえます。

可愛らしい女のコながら、運動部らしい筋肉質さが見え隠れする作画もリアルなもの。作者・マウンテンプクイチ氏の野球に対する真摯さが、そんな部分からも感じられるのではないでしょうか。

ただ、そうした要素を強調し過ぎた結果なのか、あまりにも……な完成度で評判を落としてしまったアニメ版は残念なところ。

初見の方は、できれば漫画版から入られることをお勧めします。負けても負けても諦めず、大好きな野球ができて楽しい! と笑顔の彼女たちを見ていると、こちらまで幸せな気持ちになれますよ。

著:マウンテンプクイチ
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出演:前田佳織里, 天野聡美, 野口瑠璃子,橋本鞠衣, 永野愛理, 北川里奈
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TVアニメ『球詠』プロモーションビデオ

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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