『八月のシンデレラナインS』野球が大好きなコたちのリアルな女子高校野球漫画

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『八月のシンデレラナインS』(原作・Akatsuki、漫画・星野倖一郎/秋田書店)

女子高校野球を題材にした『八月のシンデレラナインS』は、女子高校野球部が「初の甲子園出場」を目指すゲーム『八月のシンデレラナイン』(アカツキゲームス)からの派生作品。そうした予備知識を持って読み始めると、意外なほど硬派な、王道野球漫画色が強い作風に驚かされるかも?

目次

野球大好き少女たちの“世界でいちばんあつい夏”

オリジナルの『八月のシンデレラナイン』は、「青春×女子高生×高校野球」をコンセプトに、2017年から配信スタートしたスマートフォン向けゲームアプリ。怪我で野球を諦めた元球児が、高校で野球大好き少女と女子野球部を立ち上げ、「女子初の甲子園出場」を目指すストーリーです。

一方、2019年にテレビ東京系列などでオンエアされたアニメ版は、野球大好きなヒロインが入学した高校で女子野球部を創設し、素人同然の仲間たちと“世界でいちばんあつい夏”を駆け抜ける青春物語。スポ根イメージからはほど遠い、美少女たちの“きゃっきゃうふふ”な野球作品でした。

ただ、「女のコだって野球がしたい!」「野球が大好き」な想いは、しっかりと伝わってきました。野球と同じレベルで女のコたちの日常が描かれる分、かえってストレートな想いが響きやすかったのかもしれません。

こうした作風はスピンオフ漫画の本作『八月のシンデレラナインS』にも継承され、「野球が大好きな女のコたちの物語」を、素直に楽しむことができます。同じく女子高校野球を題材にした『球詠』(マウンテンプクイチ/芳文社)や『花鈴のマウンド』(原作・角谷建耀知、制作:星桜高校漫画研究会/大垣書店)と比べても、読みやすく感情移入しやすい作風といえそうです。

著:星野倖一郎, 著:Akatsuki
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高校野球で町おこし「野球で街を元気に!」

物語の主人公“鈴村あすは”は、私立泰原高校の新入生。野球への想いは誰にも負けない猪突猛進の竜巻娘で、廃部が決定していた女子野球部を再建してしまいます。

ただし、野球経験はド素人レベル。トルネード(もどき)投法からとんでもない剛球を投げ込むものの、まずはバックネット直撃の剛速球を、ホームベース上へ投げる練習から……。

そんな彼女が個性豊かな仲間や先輩たちを巻き込み、「野球で街を元気に!」と大きな夢を打ち出します。

泰原高校がある町は、地方に多く見られる“寂れゆく街”。“廃部やむなし”の空気を打ち破り、「全国大会出場」と「女子高校野球で町おこし」の二大目標を掲げるわけです。彼女たちの熱い夏は、果たしてどんなシンデレラストーリーを巻き起こすのか!?

ちなみに、「高校野球で町おこし」には実在モデルがあります。町内唯一の梼原高校に硬式野球部を創部し、学生寮を町が提供するなど、まさしく「高校野球で町おこし」を実践している高知県梼原町と、取材協力関係を保ちつつ制作されているのです。

梼原高校は男子野球ですが、近年は全国高等学校野球選手権高知県大会で上位に進出するなど、甲子園へあと一歩のところまで来ています。

野球部員が町の行事や清掃活動に参加するなど、行政と町民、高校が互いを盛り上げるため、創意工夫して活動を続ける。そんな関係性も、この『八月のシンデレラナインS』に盛り込まれているわけです。

少年漫画にも近い作風の王道野球漫画

と同時に本作は、“きゃっきゃうふふ”な雰囲気からは想像できないほど、野球への真摯な取り組みを感じさせてくれる作品でも。

「こんな球を投げたい」「もっと遠くへ打球を飛ばしたい」など、野球への想いが深まるほどに、高まっていく彼女たちの野球熱。その練習や努力のコツが、わかりやすく描かれている点も本作の特徴でしょう。

「左肩の開きが早いせいね。だからリリースの瞬間ボールに力が伝わってないの」と説明してもちんぷんかんぷんなあすはに、「体を開いて前向くのをほんの少し長く待てる?」とわかりやすくアドバイスを送るキャッチャー・理穂。野球経験者で理論派の彼女は、野球に詳しくない読者の指南役にもなってくれるはず。

なので、野球好き向けの『球詠』や『花鈴のマウンド』に比べ、読者層の裾野が広い作風ともいえそうです。可愛い女のコの青春ストーリーを通して、野球の面白さが伝わってくる。それこそ、『八月のシンデレラナイン』シリーズらしい魅力なので。

多少なりとも色モノ的な観点で読み始めると、随所に盛り込まれた、王道野球漫画的な色濃さに驚かされるでしょう。どこか少年漫画にも近いシンプルでわかりやすい作風が、そうした印象を強くさせるのかもしれません。

2021年から夏の全国大会「全国高等学校女子硬式野球選手権大会」決勝が甲子園球場で行われるようになり、女子高校野球への関心度は飛躍的に上がっています。が、女子高校野球の現状は、決して恵まれているとはいえません。

決勝に進出するほどの強豪校ではなく、1回戦で一生懸命に、大好きな野球を楽しんでいる女のコたち……の姿とも被る『八月のシンデレラナインS』。そのリアルな女子高校野球像が、彼女たちの恵まれない環境を少しでも変えてあげられるきっかけになれば……などと思うのは、自分だけでしょうか。

著:星野倖一郎, 著:Akatsuki
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原名:山口修平, 監督:工藤進, その他:田中仁, デザイン:野口孝行, 出演:西田望見, 出演:近藤玲奈, 出演:南早紀, 出演:井上ほの花, 出演:花守ゆみり, 出演:緑川優美
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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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