※一部ネタバレあり
独特な画風が生み出す絶妙な味わいがクセになる
新たな購読作品を決める際、皆さんはどのようにして決めているだろうか。
作者やジャンルをはじめ選定ポイントはいくつかあるが、絵柄も欠かせない一つ。画風は好みが影響されやすく、購読中の作品を思い浮かべてみても、人それぞれ“ボーダーライン”というものが意識的にも無意識的にもあるはず。
そのため、いくら面白そうな設定・世界観だと感じても手に取るまでに至らず、いわゆる“食わず嫌い”ならぬ“読まず嫌い”になってしまいがち。結果、名作や傑作を逃してしまいかねないのだが、かくいう筆者も人のことは言えない。
というのも『王様ランキング』は、連載がスタートした頃に興味を持ちつつも、絵本風&キュート寄りな“ヘタウマ”系の画風が好みに合わず敬遠。それから数年が経った最近、いろいろな意味で気になるキャラクター(後に「カゲ」と知る)をふと目にしたことから読み始めると熱中してしまい、読まず嫌いの恐ろしさを痛感した次第だ。
どハマリした今となっては、あの絵柄があってこその『王様ランキング』であることを実感。世界観やストーリーを生かしきり魅力的に魅せているのも、あの独特な作風があってこそだと思っている。
優しさがすぎる主人公・ボッジの情熱と成長が胸アツ
そんな『王様ランキング』を構成する要素の中でも、特に注目してほしいのがキャラクター。主人公を筆頭に個性豊かな登場人物が数多く登場する。
作中では、「高名な騎士を数多く従え」「国民が多く町が発展している」「王様自身が勇者のごとく強いこと」(第1巻P6)といった条件を基に、各国の王様を総合的に順位付けしたものを「王様ランキング」と呼び、7位のボッス王の第一王子として生まれたのが主人公のボッジだ。
彼をめぐってさまざまなストーリーが展開していくのだが、子ども用の剣すら振れない非力など厳しい境遇ながらも苦しさを人には見せず前を向いて歩み続ける姿は、見ているだけでグイグイと引き込まれていく。
ひたむきな姿勢だけでなく、人からバカにされても我関せず、逆に周囲へ無類の優しさを振りまくピュアで真っ直ぐ過ぎる心を持っている点もボッジの良さの一つ。まぶしすぎる一面が物語に温かみを漂わせているのは事実だ。
そんな彼の“極み”とも言える行動が第7巻収録のエピソード。紆余曲折の末、自分だけの剣術を身につけたボッジが大活躍する様子が描かれ、成長の喜びにテンションが上がるのだが、さらにボッジは敵味方問わず助けようとするなど、強くなってもおごらず変わらぬ心を持ち続ける姿は胸アツだ。
真の強さや優しさを体現するかのように振る舞うボッジを心の底から応援したくなり、自然と魅了されていく演出には拍手を贈りたくなる。
魅惑の脇役たちの中でも親友にして相棒のカゲの存在が出色
主人公が見どころ満載というのは当然かもしれないが、傑作と呼ばれる作品では脇役も欠かせない。今作でも、周囲にカラフルな面々がズラリ。そもそも父親のボッス王がインパクト強めであるし、「王国騎士四天王」のドルーシ、アピス、ドーマス、ベビンの4人も味わい深い。
さらに王国の跡継ぎを争う弟のダイダ、ダイダの母でボッジの継母である王妃・ヒリング、そしてとある事情から旅に出たボッジが出会う武術の師匠となるデスパーなど、一癖も二癖もあるキャラクターが勢ぞろい。特にヒリングはすぐに怒るくせに自分の過ちに気づくと即座に謝るという、なんとも面倒だが憎めない性格がたまらない。
そして忘れてはならないのが、ボッジの親友・カゲ。出会った当初はボッジのことをバカにするが、ボッジが人知れず耐えて表では笑顔を絶やさない姿を目の当たりにして改心。ボッジもカゲも単純だと思うのだが、その素直さが共鳴し合う姿は心地いいし、どこかうらやましい。
ヒリングともめたときも「オレはボッジの友達だぞ」「バカたれっ」(第7巻P114-115)と、影のような姿なので胸があるかは別として、胸を張って堂々と言い切るカゲはカッコいい。外見が外見だし口の悪さは目につくうえ、ボッジを甘やかしすぎな面もあるが、誰よりもボッジを大切にしている姿には心を揺さぶられ、作品に奥行きを感じる。
ほかにもホクロやミツマタ、物語の鍵を握るであろうミランジョなど見逃せないキャラクターは多数。名前つきキャラクターの大半に大なり小なりエピソードが用意されているだけでなく、それらが絶妙に関わり合うストーリーも単純な勧善懲悪ですまさない展開で秀逸と言える。別の機会に深掘りしてみたい。
心の奥底から“悪人”というキャラクターがおらず、どの人物も誰かのことを思って行動している、思いや優しさにあふれているのが◎。ボッジやカゲを代表に、絵柄と役割、背景に潜む事情といったギャップ萌えが素敵な作品なので、読む際は“推し”を決めて読むのも一興かもしれない。