「超おけまる!」なギャルが日本縦断チャリ旅に挑む異色作『旅ぎゃる!日本じゅーだんチャリきこー』

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旅ぎゃる!日本じゅーだんチャリきこー
『旅ぎゃる!日本じゅーだんチャリきこー』(川喜田ミツオ/KADOKAWA)

口癖は「マジ映える!」「ぱねぇ!」「超おけまる!」。そんなギャルJKが自転車で鹿児島から北海道を目指す、一風(かなり?)変わったチャリ紀行漫画が『旅ぎゃる!日本じゅーだんチャリきこー』なのです。

目次

既成概念を打ち破る破天荒な自転車漫画!?

女子高生&女子大生+自転車漫画といえば、『ろんぐらいだぁす!』(三宅大志/一迅社/ブシロードメディア ※途中から出版社変更)や『南鎌倉高校女子自転車部』(松本規之/マッグガーデン)などを思い浮かべるところですが、いずれもヒロインは正統派の(アイドル系)美少女タイプ。基本作風は真面目でストイック。こと自転車に関しては、専門的な(ときにマニアックな)要素も目立ちます。

が、この『旅ぎゃる!日本じゅーだんチャリきこー』は、そうした既成概念を打ち破る、破天荒な自転車漫画だったりします。

主人公(ヒロイン)の道端ミチカは、メイクとネイルが命な超ギャル。今どき見かけない正真正銘の“ギャル”で、天真爛漫すぎる性格で怖いもの知らずなのですが、重大な弱点がひとつ。

ひどい乗り物酔い体質で、電車や車など“乗り物”に乗ると30秒で吐いてしまう! そのため、故郷の鹿児島から出たことがない(出られない)ギャルなのです。

そんな彼女が唯一、乗れるものといえば自転車。なわけで、吐かずに乗れるチャリで鹿児島から北海道を目指すことに!

不朽の名作『サイクル野郎』にも相通じる世界観

いや、ちょっと待って!? そう思われた方は、正常です。そもそも物語の基本設定からして、かなりおかしいわけで。

北海道へ引っ越した親友が、高校生なのに結婚!? それを祝うため、鹿児島から北海道へチャリで向かう!? しかも弟から奪ったママチャリで!? 北海道まで3~4日で行けると思い込む!? とんでもなくご都合主義で、いろいろ壊れている作品だとも。

案の定、走り出して1時間半で挫折するミチカ。命より大事なメイクが崩れ、途方に暮れてしまいます。

が、ここから物語は急展開。ひょんな出会いから旧型ランドナー(=頑丈で重い荷物も積める長距離走行向き自転車)を手に入れた彼女は、本格的な自転車旅に目覚め……。自転車の知識がある方ならお分かりでしょうが、ランドナーといえば、自転車漫画の金字塔『サイクル野郎』(荘司としお/少年画報社)でもお馴染みな“サイクリング”の主流&王者のマシン。が、昨今は軽量モデルやマウンテンバイク系に押され、もはや過去の遺物と化すほど見かけなくなった自転車なのです。

つまり、超ギャル+ランドナーの組み合わせは、あまりに異色……なのですが、そこに作者のこだわりが感じられるとも。旅自転車といえば、ランドナーでしょ? と。

前後輪の両サイドにバッグを括り付けたランドナーは、それだけで“旅してます”感に満ちたもの。ランドナーでなければ、『サイクル野郎』が歴史に残ることはなかったかもしれません。

そう、『旅ぎゃる!日本じゅーだんチャリきこー』は、不朽の名作『サイクル野郎』にも相通じる自転車漫画……! とは、褒めすぎ?

旅物語を紡ぐ自転車は“自分らしさ”の象徴

『サイクル野郎』は旅紀行文学でもあったわけですが、その点でも共通項が。天真爛漫な性格で、誰にでも同じように接するミチカは、旅先での出会いに事欠きません。人々との出会いを通し、何でも素直に吸収しながら成長していく彼女の姿は、読み手が自身を見つめ直すきっかけにもなるでしょう。

また、自転車好きな仲間を通し、ド素人同然だった彼女の自転車スキルも急成長。手先が器用で、チェーンやワイヤー調整・整備などもお手の物。持ち前の体力でロングランもこなし、いつしか本格的な自転車乗りへ……。

なのですが、そこで自転車漫画になり過ぎないサジ加減も、本作ならでは。出会いやグルメ、観光スポットなど、本筋が“旅の楽しみ方”な作風はブレず、安心して読み進められます。連載が四国上陸で終了してしまったのは残念ですが、当初は短期連載の予定だったらしく、九州縦断だけで単行本2巻以上のボリュームは想定外? それだけ、濃厚な旅物語が描かれています。

ちなみに、無事に北海道へ到達したことは第1話でも描かれます。でも、乗り物に乗れない彼女が、どうやって北海道に渡ったのかは……永遠の謎にしておきましょう。

「自転車ってさ、速く走れるけど走らなくてもいいし、長く走れるけど景色を見るために止まってもいいじゃん? 色んな人がいて、色んな走り方があって……自分のやりたいように自由に選べる。そんなの、最強の乗り物じゃん!」

彼女にとっての自転車は、“彼女らしさ”の象徴だったのかもしれません。自転車漫画としては異端児的な作品でも、自転車や旅が好きな方なら、きっと心のどこかに響くものがある。『旅ぎゃる!日本じゅーだんチャリきこー』は、そんな作品なのです。

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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