「月刊コミック電撃大王」(KADOKAWA)で2002年から2012年まで連載された『GUNSLINGER GIRL』は、闇組織が暗躍するイタリア裏社会を舞台に、対テロリスト機関の戦いを描くガンアクション漫画。一部では社会的な問題作と評されながらも、第16回(2012年)文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞した本作の主人公は、銃を手に平然と敵を倒す美少女たちで……。
義体化で人間兵器と化した少女たち
「少女に与えられたのは、大きな銃と小さな幸せ。」
コミックス第1巻の帯に書かれたコピーこそ、本作品の本質を物語っているのかもしれません。
地域間や思想の対立からテロや暗殺が絶えなかったイタリアでは、政府が社会福祉公社を設立。表向きは障害者支援組織ながら、公社の実態は対テロ組織。障害や瀕死の重傷を負った少女たちに義体を与えて洗脳し、暗殺など超法規的活動の担い手に育成する闇組織だった……。
という基本設定だけでも、本作が問題作と評される理由はおわかりでしょう。
主人公(ヒロイン)のひとり・ヘンリエッタは、連続殺人犯による一家殺害事件で家族を失い、自らも暴行を受け続けた結果、左眼・右手・左足を失う瀕死の状態で生き残った少女。ヘンリエッタと同室のリコは、CFS症候群で先天性の全身麻痺を抱え、病院内でしか生きられなかった少女。初期段階から10人ほど登場するキャラ全員が、何かしら闇の過去を抱えた少女ばかり。義体によって命と動く身体を得た彼女たちは、人間兵器ともいうべき存在に育成される……。
彼女たちは洗脳によって、さらなる残酷な運命を背負わされます。日常生活では可愛らしく純真な少女像を織り成しながら、有事となれば無感情に引き金を引く。淡々と“任務”をこなす様は、冷徹で恐ろしくもあり……。
洗脳と愛情の狭間で葛藤する少女たち
こうした洗脳は“条件付け”と定義され、テロリスト殲滅への使命感だけでなく、コンビを組む公社の担当官(人間の男性)への従順さも重要な要素に。人間的な感情も残る彼女たちは、担当官への条件付けと、愛情の違いに苦悩する……。
担当官もまた、生活時間の多くを共にする彼女たちに、複雑な想いを抱いていきます。それがまた、いっそう哀しい結末をもたらすことになるのですが……。人間的な感情に芽生えた彼女たちが生き残れるほど、状況は甘くないわけで。
まだ十数年しか生きていないのに、彼女たちの歩みがどれだけ重苦しいものか。本作品が一部で悪趣味だといわれる所以は、そうした闇の部分を、オブラートで包むことなく描き出した結果でしょう。
ただ、忘れてはならないのは、想像を絶するエピソードであっても、非現実的な物語ではないこと。実際に起こり得る、誰もが突如、絶望の淵に蹴落とされるという現実かもしれないのです。
彼女たちの苦悩や葛藤を通して、何を感じるかは千差万別でしょう。ただ、その問題提起から目をそらし、封印してしまうことが正論とは思えません。だからこそ本作を取り上げ、知らない方にも読んで欲しいと思うわけです。
涙なしには読めないハッピーエンドの欠片
欧州が舞台だけに、様々な人種の流れを受け継ぐ彼女たちの可憐さや可愛らしさは、本作ならではの魅力でもあります。そんな彼女たちが共同生活を送り、“きゃっきゃうふふ”な時間を過ごす様は、雑誌『まんがタイム きらら』(芳文社)系かと錯覚するほど。物語序盤こそ作画に不安定さも感じられますが、その後はレベルが飛躍的にアップし、超美少女漫画といえるほどに。
ですが各キャラへの思い入れが深くなるほど、その後の絶望感に打ちひしがれることになります……。
ネタバレになりますが、彼女たちのほぼ全員が、いずれは命を落とすことに。義体化や条件付けの副作用、人間的な感情がもたらした戦場での躊躇、戦闘での不運……。さまざまな形で描かれる死は、無残な、むごいものであることも珍しくありません。
思わず言葉を失い、目を覆いたくなる結末に耐えなければ、次の物語には進めない。読者を試すかのような作風に、違和感を覚えても不思議はないかと。
でも、そこには必ず、ほんの小さな欠片かもしれませんが、彼女たちなりのハッピーエンドが秘められています。それを見つけてあげることが弔いに……との思いは、間違いでしょうか。
切なすぎて、読み進めることが辛くなっても、涙が止まらなくても、彼女たちの葛藤を見届けてあげたい。涙なしには読めないエピソードも少なくないので、覚悟を持って……。『GUNSLINGER GIRL』たちよ、永遠に……。