『岳』-山に興味があるなら必ず読んでおきたい「登山者に愛され続けた山岳漫画」!

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『岳』(石塚真一/小学館)

登山を題材にした本格的な硬派作品として、全150話超(単行本・全18巻)に及ぶ大作『岳』。山好きな方はもちろん、登山とは無関係な日常生活にも相通じる“何か”を考えさせる物語は、熱く男臭い漫画を求める方にもお勧めです。

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山の無情さや厳しさが容赦なく描かれる

’00年代後半から巻き起こった“山ガール”ブームを機に、第3〜4次登山ブーム(諸説あり)といわれる昨今。ウォーキングやトレッキングから“山登り”を始める人も、急増中なのだとか。

そこで「登山系の漫画」を検索してみれば、必ず上位に表示される作品が『岳』なのです。

小栗旬・長澤まさみ出演で実写映画化もされていたため、名前だけでも聞いたことある人が多いかもしれません。ただ、安易に登山入門書的なイメージで読み始めると、面食らうかもしれません。物語のテーマは、遭難者の山岳救助。命がけの救助が、キレイごとではなくリアルに描かれるので。

救助が間に合わず、遭難者が既に息絶えた状況も少なくありません。山の無情さ、厳しさが妥協なく描かれる様は、「なぜ山に命を懸けるのか」「山なんか登らないほうがいい」とも受け取られかねず……。

ニュースで登山遭難が報じられる際にも、「無謀な」といった意見が数多く聞かれます。でも、その一つひとつには、何かしら秘められたドラマが隠れているのです……。

そうした陰の部分に視点を向けた本作だからこそ、登山漫画の代表作といわれ、多くの登山者に愛され続けているのかもしれません。

著:石塚真一
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『実在モデルも存在した山岳救助ボランティア

主人公・三歩は、テレビなどで描かれる警察の山岳救助隊ではなく、民間の山岳遭難防止対策協会(遭対協)に加盟するボランティア救助隊員。山を愛し、北アルプス山中でテントなどに寝泊まりしながら暮らす、いわば山の放浪者という設定です。

多くの世界名峰に登頂し、豊富な登山経験・技術・知識を持つ彼は、遭難者を決して責めません。遭難者の元に駆け付けた第一声は、決まって「よく頑張った」。例えそれが、息絶えた遺体であったとしても……。

三歩の姿勢からは、絶えず要救助者への労りや優しさが感じられます。それはおそらく、生死の境が紙一重な世界だからこそ共有できる、山を愛する心の絆でもあるのでしょう。山の美しさと、相反する恐怖。そこに惹かれる人々の想いが、熱い物語を生み出すわけで。

そんな三歩には、実在するモデルがいたのだとか。北アルプスの山小屋・穂高山荘の元支配人・宮田八郎さんです。

山小屋運営とともに30年間もボランティア救助活動を続けた宮田さんは、山の遭難で必ず言われる“自己責任論”を、真っ向から否定したといいます。

「責任を果たせなくなっている状態が、“遭難”なのだから」

とても重い言葉ですが、三歩にも宮田さんの想いが反映されていると考えれば、その姿から作品テーマが浮かび上がってくるはずです。

宮田さんは2018年、残念ながら海の事故で帰らぬ人となりました。同氏の著書『穂高小屋番レスキュー日記』(山と渓谷社)も出版されているので、本作とともに一読されてはいかがでしょうか。

「なぜ山に登るのか?」の問いに答えてくれる物語

物語は基本的に読み切りスタイルで、ひとつのストーリーが2話〜4話(作中では“第*歩”と表記)で完結します。中途半端な引き延ばしや、読み手を無視した急展開などはなく、気持ちよく読み進められることも作品の魅力に。

山岳救助を通して描かれる登場人物は、初心者からベテランまで様々。仕事や日常生活、恋愛に介護など、彼らが山に登る背景もまた様々。幅広い層の山好きに、心を打つ物語があるはずです。

また、山に登ったことはないけれど、興味はあって……といった方にも、山の魅力が十分に伝わるでしょう。

「なぜ山に登るのか」「そこに山があるから」

そう言いたくなる気持ちが、不思議とわかってきますから。

ただし、遭難事故の多さには驚かれるかもしれません。山登りを始めたばかりの初心者(=実は筆者も)にとっては、衝撃的な数字も……。

先ごろ完結した、プロアドベンチャーレーサーが日本三百名山の完全人力踏破に挑む『グレートトラバース』シリーズ(NHK BSプレミアム・総合で放送)でも度々語られた、「山をナメてはいけない」。この想いを忘れなければ、山の神は必ずや登山者に微笑んでくれる。それこそ、『岳』が伝えたかったメッセージなのかもしれません。

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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