読む人を選びそう……という理由で読まないのはもったいない! 元カノと元カレが織りなす、“奇抜”で“斬新”な世界観にハマろう――『往生際の意味を知れ!』

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往生際の意味を知れ!
『往生際の意味を知れ!』(米代恭/小学館)
目次

元カノとの結婚を望む主人公をどう捉えるかで、読み出しの印象が変わる面白さ

皆さんには、「忘れられない恋」というものはあるだろうか。そこまで想いの深いものでなくとも、大なり小なり、恋愛にまつわる思い出を持っている人は多いはず。本作もそんな「忘れられない恋」をきっかけに物語がスタートするのだが、なにより主人公・市松海路(いちまつ・かいろ)のキャラクターが強烈なため、その見え方がまたひと味変わってくるというのが興味深い。

何をもってしてネタバレかという線引きが難しい本作だが、主人公の性格を表す事例として示しておきたいのが、彼が発する「元カノと結婚したいです。」という言葉。元カノというのは、7年前に失踪した日下部日和(くさかべ・ひより)のことで、詳細はマンガで是非とも確認してほしいのだが、7年前に別れた彼女のことを思い続けている彼を、一途と感じるかどうかによって、本作の“第一印象”が変わってくるはず。

もし共感できなかったとしても、あくまでも“第一印象”にして、本作を形作るピースの一つなので、どうか脱落しないでほしい。ちなみに、一途だと思いたくはなるが、彼が合コンでもそのセリフを口にしているのを見るにつけ、なかなかの性格の持ち主と言え、物語をどう彩っていくかワクワクさせてくれるのもたしかだ。

著:米代恭
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突然戻ってきた元カノによる、言葉を失うような要求で先読み不可能に!?

そんな彼の前に、ある日、元カノ・日和が突然現れ、思いがけなすぎて耳を疑うような言葉を投げかけてくる。公式などにも掲載されているので、ネタバレを恐れずに書いてしまうが、「市松君に私の出産記録を撮って欲しいの。」というのだから驚き。その後の2人のやりとりは伏せておくが、およそ日和の言い分は、まったくもって多くの人が思いつかない内容で、言葉を選ばすに言ってしまえば“自分勝手”とも取れる提案なのだ。

もちろん、ストーリーを読み進めていく中で、その驚愕の要求の裏にはある目的が存在することがわかってはいくのだが、市松にとっては知るよしもなし。ところが、彼は彼女の提案を見ている限り迷うことなく受け入れているのだから、二度驚き。ここまでくると「元カノって何だか良いよね」みたいな、世間一般の会話をはるか凌駕するほどの“元カノ最強”論者の市松を、むしろ尊敬のまなざしで見たくなってしまうから不思議だ。

作品世界との距離感の取り方次第でいかようにも熱くなれる!

ここまでの説明で、恋愛ものとしては類を見ないパターンに少し受け入れがたい思いを抱く人もいるかもしれない。ただ、待ってほしい。先ほども書いたが、このことは物語を大きく展開させる一つの“きっかけ”にすぎない。「すぎない」とは、それこそ言いすぎかもしれないが、一般的に見て常識外れとそのさらに上を行く型破りな2人による“恋愛”は意外なほど見ものだし、市松の好き嫌いは大きく割れるだろうが、振り切ったように見えて端々に“人間くささ”が感じられ、次第に許容できようになっていく……はず。個人的にはそう感じた。

たまに「読む人を選ぶ作品」という言葉を耳にする機会もあるが、誤解を恐れずに言うと、そもそもどの作品についてもその形容が当てはまるのでは? なんてこともたまに思ってしまう。つまりは人の好みは千差万別。ジャンルやキャラクターなど、着目するポイントも違えば、グッとくるシーンやセリフも異なるということ。

その点、入り口がかなり特殊な“恋愛”事情である本作だが、読み進めていくことで、作品が見せる「表情」は次々と変わっていくのが心地いい。さらに、恋愛ものにとどまらず、次第にミステリー要素や復讐要素、複雑な家族の事情といった刺激が次々と投入され、感情を揺さぶりまくってくれる描写との相乗効果で、まったく目が離せなくなってしまうのは驚異的だ。当然のことだが脱線したり盛りすぎたりというわけではなく、バランスとテンポを絶妙に保った状態で仕掛けの数々を繰り出してくるのは素敵すぎる。

世界観や登場人物に寄り添えるまで、人によってペースはさまざまだろうが、何か一つハマるものさえあれば、先の展開が気になることは請け合い。予定調和など何のその。奇想天外なストーリーや、キャラクターの心理描写を重視するようなタイプの作品が好きな人は、是非とも一度手に取ってみてほしい。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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