『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』恐るべし、“プレゼン”という名の暴力…!!

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邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん
『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(服部昇大/ホーム社)
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あったっけそんなの!?」“少々マニアックな邦画(一部例外アリ)”への止まらない偏愛

「映画の話が誰かとしたい! したくてしたくてたまらないのだ!!」。映画鑑賞にうつつを抜かすような輩は皆無に見えるゴリゴリの進学校。「映画について語る若人の部」を作ったちょっとニヒルな17歳・小谷洋一は、それでもアカデミックな“あすなろ”の到来を待ちわびていた。そんなある日、そこに映画鑑賞が趣味だと話す1年生・邦吉映子がやってくる。

洋一と同じく、映画について語り合う相手を求めていた映子は、部の求人チラシにある「あなたの好きを肯定する部」という文言に心惹かれたというが、一方で「そこまで詳しいわけでもない」と自信なさげ。それを「俺も『アイアンマン』辺りから映画に目覚めたクチ」などと励ました洋一は、映子に共感しつつ「一番好きな映画を当ててやろう」と切り出す。

期待に胸を膨らませる映子に対し、洋一はまず“普通の女子”が好む作品群を列挙した。しかし映子は「好みがマニアック」と前置いていたことから“メジャーなマニアック作品”も抑え、「わかった!『バトルシップ』だ!」と促す。だが、満面の笑みを浮かべる映子の回答は「私が好きな映画は実写版『魔女の宅急便』でありますっ!」というものだった。

「褒めないで誰が映画を見ますか」思い浮かぶは“サヨナラおじさん”

「必ず褒めなさい。よいところがどこかに必ずあるはずだから、必ずそこを褒めて視聴者に勧めなさい」。長寿クイズ番組『パネルクイズ アタック25』の初代司会者として知られた俳優の児玉清は、奇しくもその放送開始年である1975年より短い期間だけ解説を務めていた映画番組『土曜映画劇場』において、監修役の映画評論家・淀川長治からそのようなクレームがついた経験があることを、著書『寝ても覚めても本の虫』(新潮社)で振り返っている。

淀川といえば、「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」の名文句や柔らかく愛情あふれる語り口の解説で親しまれた映画番組『日曜洋画劇場』の名物解説者としてお馴染みだが、前日に放送される児玉の『土曜映画劇場』は、その“バーター”のようなきらいがあったそうだ。

児玉は単なる憶測だと前置きつつも、『寝ても覚めても本の虫』に「人気の高い洋画を買い取る際に、いわゆるC級作品も沢山抱き合わせで買わされてしまう」「こうしたC級作品も放映する機会を作らなくては、ということで『土曜洋画劇場』なる番組枠が急遽設けられたのだと思う(本文ママ)」と書いている。「必ず褒めなさい」という淀川の叱りは、“C級映画”を「自分の心を正直に吐露」して解説した児玉に対して、というのが事の顛末である。

この淀川による言葉は、児玉の心に後年まで強く焼き付けられることになったそうだ。これらが書かれた『寝ても覚めても本の虫』の一節は、先に逝った淀川への惜別の念で締めくくられるが、児玉はその結びまでに「褒めないで誰が映画を見ますか」という淀川の言葉も引きつつ、批判的、批評的な言葉を発しなかった映画への姿勢を「褒めることに徹することで、これまたきちんとご自分の心の中でけじめをつけていらした」と評している。

ネットでの評判ぶりから手に取ってまず思い浮かんだのが、児玉清が指摘するところのそんな、在りし日の淀川長治を思わせるような映画への目線だった。Twitterユーザーなら、『邦キチ』の略称でトレンドを賑わせているのを一度は見かけたことがあるのではないだろうか。「邦画プレゼン界の生き字引」を謳う『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』だ。

「邦キチ案件」という“評”――“けじめをつける”「好き語り」の気持ち良さ

どう書いたものか苦慮するのだが、紹介文の表現をそのまま借りれば、本作はライトな洋画好きの洋一、癖のある邦画を癖のある愛し方をする“邦キチ”こと映子ら映画に一家言ある面々が、“少々マニアック”な邦画(一部例外アリ)をプレゼンしてくれるマンガだ。

冒頭に導入を引っ張ってきた第1話で紹介される実写版『魔女の宅急便』のように、取り扱われるタイトルは(これも間違いのないように作中の表現を借りるが)「一瞬話題になったがすぐにス――ッとレンタル棚の隅に行った系」が中心となる。Season6で『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が扱われたりするなど適宜の変化球も挟まれるが、本作の本領が発揮されるのはやはり“少々マニアック”な作品だろう。特に、“実写化”系の邦画をネt……題材にした掛け合いの鋭さとそのキレは、思わず唸ってしまう読者も多いはずだ。

本稿を執筆した2022年2月、とある邦画がちょうど、その一癖ある内容から「邦キチ案件」だと騒がれていた。これは読んで字のごとく、「『邦キチ』で扱われそう」という“評”である。この「『邦キチ』で扱われそう」をどう捉えるかは人によるが、『邦キチ』ではかつて、映子の忌憚のない意見として「ネットの意見を鵜呑みにする」ことが揶揄されていた。

昨今ネットによって、映画はますます“ネタ消費”のやり玉に挙げられがちなコンテンツとなっている。『邦キチ』はそういった時流に乗った作品と読める一方で、淀川的な「褒めないで誰が映画を見る」精神に則ってプレゼンし、これもまた淀川的に「褒めることに徹することでけじめをつけている」作品とも読める。筆者は後者の見方で本作を捉えている。

「好き語り」を聞くのは楽しいし、自ずと興味をそそられる。2022年2月18日よりスタートのSeason8、「若人の部」の面々+αは今後、どんな映画のプレゼンで盛り上がるのだろうか。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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