どこにでもある等身大の人生を描いた、心の琴線に触れる4つのストーリー——『アガペー』

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アガペー
『アガペー』(真鍋昌平/小学館)
目次

似たようで違う、心を動かす“誰か”のライフストーリーに触れる

ふと、「自分の人生とは何だろう」と考えることがある。

日々を懸命に生きていても、誰しも一度は考えたことがあるのではないだろうか。人生は一度きりだ、当然良いものであってほしいと思う。だからこそ、無意識のうちに他人と比べ、誰かの不幸を見て安心したり、「自分は幸せな方だ」と言い聞かせたりする。

幸か不幸かは自分自身が決めること。

他人から見ればちっぽけな人生でも、当人にとっては限りなく幸せなものかもしれない。逆に、全てにおいて恵まれた人生でも、当人にとっては息苦しく孤独なものかもしれない。人生は自分次第で、つまらないものにも素晴らしいものにもできるのである。

『アガペー』は、今を生きる人々の等身大の姿勢をリアルに描いた秀作である。何の変哲もない、どこにでもある日常だからこそ心に響く。他人と比べる必要はない。それでも他人の人生は興味深い。それは“自分が主人公だったかもしれない物語”であるからだ。

本作には4つのストーリーが収録されている。

人生をかけてアイドルを推す熱狂的なオタクを描いた表題作「アガペー」。地方都市に暮らす若者の現実を写す「ショッピングモール」。東日本大地震後の移住者と故郷に残った者の在り方を綴った「おなじ風景」。東京で暮らす貧困層の女性の生き様を表す「東京の女」。

著:真鍋昌平
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どこか満たされない平凡な人生、変えることができるのは“豊かな心”。

短いストーリーには、ありのままの誰かの人生が詰まっている。これといった起承転結はない。実際の日常はドラマチックなものばかりではないのだ。孤独や葛藤、どこか生きづらさを感じつつもただ生きている“誰か”のありのままが丁寧に表現されていて、ホッと安堵感に包まれる。

細やかな情景描写や流れるようなコマ展開は素晴らしく、揺れ動く感情、ちょっとした言動にこそリアリティがあり、“どこかにいる自分”を主人公にした“人生”というショートムービーを見ているような気分になる。表情や感情表現も人それぞれで実に面白い。

筆者は幼い頃から熱しやすく冷めやすいため、自分の人生を捧げてまで“推し活”をする人の心理が分からなかったが、本作のドルオタの生き様に触れ、それはそれで素敵だと思えた。彼らは生活苦を抱えながらも、“推し活”の時間を心から楽しみ、大きな満足感を得ている。他人と自分の人生を比べることなく、“推し活”に幸せを見出している。彼らの心は豊かだ。

これらのストーリーは、誰もの心に通ずるだろう。地方出身者でなくとも若者の抱える閉塞感や鬱屈、移住者を悩ませる故郷との関係性には共感できる。心があるから、生きることは時に難しい。心が生を奪うことすらある。しかしながら、心が豊かであれば人生は満たされる。東京に暮らす女性のひとりとしては、「東京の女」のキャラクターの人生が身に沁みた。結局のところ、金があっても、夢があっても、将来を誓った相手がいても、自分の心が豊かでなければ人生は満たされない。

特別ではないありがちな彼らの生き様にこそ、人生の真理を見た。

波紋のようにじんわりと心を揺さぶる、気軽に読める傑作短篇集

『アガペー』は、『闇金ウシジマくん』(小学館)シリーズで広く知られる真鍋昌平氏による漫画短篇集である。

過去に「週刊ヤングマガジン」(講談社)、「週刊モーニング」(講談社)、「月刊!スピリッツ」(小学館)、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に掲載された4篇を収録している。

取材を基に完成された本作には、どこまでも現実味がある。

自分のものだったかもしれない“誰か”の人生。果たして筆者が、皆さんが、取材を受けた人物であったなら、描かれるストーリーはつまらないものになるのだろうか。つまるところ、他人の視点などどうでもよい。それぞれのストーリーの主人公である、各々の人生のどこかに幸せがあれば、それでよいのである。

比べる必要はない。学ぶ必要もない。ただ、同じように日々を生きる有体の人生に触れてみてほしい。何か感じることがあるかもしれない。

著:真鍋昌平
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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