「いい弁護士は性格が悪い」あの『ウシジマくん』作者が“悪徳弁護士”で世に問うのは……『九条の大罪』

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九条の大罪
『九条の大罪』(真鍋昌平/小学館)
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「私は法律と道徳は分けて考えている」“クズ”の半グレが「勝つ」ケース

「正直にしゃべって大丈夫。ここだけの話だから」。なぜか厄介な案件ばかりを引き受ける弁護士・九条間人のもとに、轢き逃げを起こした半グレの男が訪ねてきた。ながらスマホで飲酒運転をしていたという男。九条は被害者死亡の場合は危険運転致死なら求刑10年、過失運転致死なら執行猶予と説く。これを聞いた男は「轢いた奴生きててくれねーかなぁ」と呟くが、九条は供述があると厄介だからと「被害者は死んでたほうがいい」と言い切る。

さらに九条は、これは独り言だと前置いて証拠隠滅についてアドバイスし、「余計なことは何もしゃべらない」ように男に念押したうえで、自首に同行。そして裁判は、被害者親子が父親は死亡、息子は左足切断の重傷という状況ながら、男に執行猶予が付される結果となった。裁判所を後にする際、九条は事務所に居候している弁護士・烏丸真司から「世間では九条先生は悪徳弁護士」と揶揄される。だが、九条はこう切り返す。「思想信条がないのが弁護士だ」と。

著:真鍋昌平
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安定の“胸くそ悪さ”で踏み込む社会の闇 “悪徳弁護士”は何を見て、何を考える

若くして闇金業を営む生粋のアウトローを主人公に、彼に関わるさまざまな人間のドラマを通して社会の闇を描いた『闇金ウシジマくん』の真鍋昌平。その最新作が『九条の大罪』だ。「主人公は弁護士」とだけ聞くと、前作の真逆を突いてきたような印象を受けるが、描かれる内容は冒頭に記したとおり。“クズ”な登場人物たちが織りなす、“胸くそ悪い”展開は健在である。前作とは異なる側から、やはり社会にたしかに存在する闇に踏み込んでいるのだ。

九条いわく、弁護士の使命は「道徳上許しがたいことでも、依頼人を擁護する」こと。当然、そんな彼の顧客はきな臭い人間ばかりだ。前作から、主人公の立場は変わり、舞台が移れど、それに接する主人公のフラットな目線は変わらない、というのが本作を含む真鍋作品の面白さだろう。冒頭の話で、弁護士を立てなかった被害者遺族は「無知は罪」で終わり、救われない。「弱者」と「強者」の存在から目を逸らさない描写が、胸をかき乱し揺さぶるのだ。

これは過激なエンタメか、残酷なリアルか。「法とモラルの極限ドラマ」は何を描く

「『正義が勝つ』というハッピーエンドを作るのは簡単ですが、一人の漫画家が作品のなかで正義をふりかざしたところで、社会課題や問題は何も解決しません」とは、「文春オンライン」のインタビューで本作について語る真鍋の言葉だ。(記事ページ)。

これは過激なエンタメなのか、はたまた残酷なリアルなのか。何が正しく、何が間違っているという常識がひっくり返る感覚に戸惑いながら見届けたい、九条のまなざしである。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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