スリルと人間ドラマをたのしみながら芸術を学ぶ 『ギャラリーフェイク』

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ハリウッド映画や1話完結の海外ドラマのように、短い時間でスリルや感動を味わえる娯楽を求めていた00年代。アニメ通の友人から紹介されたのが、ビッグコミックで連載中の『ギャラリーフェイク』だった。1995年には小学館漫画賞を受賞。のちにTVアニメ化もした伝説の作品である。

主人公の藤田玲司は、贋作専門の画廊「ギャラリーフェイク」のオーナー。フェイク品を売りつけたり、ブラックマーケットで美術品を横流ししたりするという黒い噂もあり、業界ではつまはじきにされている30代後半の男だ。

物語は、一見胡散臭い美術商・藤田が古今東西の美術品をめぐり、さまざまな人々と向き合いながらトラブルや事件を解決していく様子を、時にはサスペンスあり、ハードボイルドありのスピーディなタッチで、またある時は人間模様にフォーカスを絞って細やかに描き出すというもの。

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1話1話がまるで映画のようなボリューム

1話1話が映画のような深い設定でありながら、短い時間でサクッと読める。そのうえ、ジェットコースタームービーを観終えたときのような達成感がついてくる。なにしろ、求めていたスリルや人間ドラマを楽しむ間に、ゴッホやらフェルメールやらミレーやらモディリアーニ……と、名前しか知らなかったような芸術家やその作品にまつわる情報が、スルスル頭に入ってくるのだ。

名画だけではない。本作では、東洋の茶器から古代ギリシャの彫刻、ナポレオンの香本まで、古今東西のあらゆるアートに焦点を当て、美術品そのものの魅力はもちろんのこと、その歴史的背景や作品を取り巻く人間模様や残酷な事件をも取り上げ、果てはそれらが現世に受け継がれる経緯や美術業界に携わる人々の活躍までも描き出している。物語を楽しむ間に、おびただしい量の知識と興味関心が身につくのは、この作品ならではの魅力といっても過言ではないだろう。

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物語に没入するうち、アートが身近な存在に

美術品にまつわるドキュメンタリー要素は、ともすると説明的になりすぎて、読み手に対しある種の覚悟や意気込みを要求しがちだ。でも『ギャラリーフェイク』は違う。まどろっこしい情報は、映画や展開の早いドラマのようにスリリングな描写と脳裏に焼きつく印象的な絵柄の中に効果的にまぶされているため、読み手はただ、魅力的な登場人物たちが織りなす物語に身をまかせるだけでいいのだ。

手に汗握りながら物語に没入するうちに、ゴッホやミレー、モディリアーニは身近な存在になっている。気づけば、フェルメールの描く光と影の世界にとりつかれたという人もいるかもしれない。芸術の「げ」の字も知らなかった私も、この作品を読むうちに芸術に対する認識がガラリと変わった。知識と呼べるほどではないかもしれないが、今の私は美術品がどのようにして国境を超え、世紀を超えるかを漠然と理解している。何より、もっと知りたいと思えるようになった。芸術に対する興味関心を育めただけでも、読んだ価値はあったといえよう。

芸術を知るのに決まった道は存在しない。スリルや人間ドラマから入ってもいいはずだ。本作の連載スタートは1992年。2005年以降は単発で数話発表されただけだが、30年近く経っても色あせない魅力がそこにはある。自宅にいる時間や家族で過ごす余暇が増えるこの時代。伝説の漫画で楽しみながら芸術への造詣を深めてみてはどうだろうか。

余談だが、主人公の藤田には女性をツンデレにさせてしまう魅力があると私は思う。最初はたいそう胡散臭かったため、キャラ萌えはないと思っていた。それが、本当に作品を必要とする人物には闇で仕入れた真作でさえタダ同然で渡してしまう藤田の意外な一面を見た瞬間、暴力的なまでに吸い込まれてしまった。惚れるもんか、惚れるもんか! と抗いつつも惹かれてしまうこの悔しさ! 女性読者の方には、ぜひそんなモヤモヤ感も味わってみてほしい。

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この記事を書いた人

妄想の余地と萌えどころがあればジャンル不問でどっぷりハマる、フィクション大好き女子。

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