『戦争は女の顔をしていない』ロシア・ウクライナ・ベラルーシで第二次世界大戦に従軍した女性たちの物語

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『戦争は女の顔をしていない』(原作・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、監修・速水螺旋人、作画・小梅けいと、KADOKAWA)

ウクライナ出身のノーベル文学賞受賞作家、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチによる、同名ノンフィクション作品をコミカライズ化した『戦争は女の顔をしていない』。第二次世界大戦中、旧ソ連(ロシア)戦線に投入された従軍女性500人への取材・証言を基に、“戦争”の実態を描き出すドキュメント作品だ。

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ウクライナ&ベラルーシから100万人以上の女性が従軍

2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチによる同名原作は、1985年の発刊以来、80年代だけでも発行部数が数百万部を突破した話題作。第二次世界大戦のソ連軍に従軍した、女性たち500人への聞き取り取材で構成される“戦争の真実”だ。

歴史の表舞台で語られることがなかった従軍女性の物語は、ショッキングかつ衝撃的なエピソードが続く。その主旨は政治的な思想背景にも及ぶため、本の完成から2年間は発行を許されなかったという。

当時のソ連軍に従軍した女性は、推定100万人を超える。看護師や軍医など医療部隊、本作でも描かれる洗濯部隊などさまざまな形態で前線に派遣され、戦況悪化とともに狙撃兵、通信兵、戦車兵、高射砲部隊、航空機操縦員など全軍へと配属が拡大していく。

第二次世界大戦の戦史を紐解いても、これほど女性の従軍が進められた国は他に見当たらず、追い込まれていたソ連と社会主義国家体制の歪みも垣間見られる。同時に、ナチスドイツの対ロシア戦線がウクライナとベラルーシ侵攻から展開し、彼女たちの大半が両地域から派遣されていた史実も、昨今の世界情勢では見逃せない。ベラルーシでは、祖国を中傷する著書として原作が禁書扱いされてきた過去も……。

著:小梅 けいと, その他:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
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キスも未経験な十代の女性たちが戦場へ

戦後の彼女たちは世間から白い目で見られ、差別対象として辛い日々を送ったという。戦後数十年を経た80年代半ばまで陽の目を見ず、自身の体験をひた隠しにしなければならなかった彼女たちの物語は、確かな想いがなければ読み進められないほど重い。

彼女たちの多くは、「キスもしたことがない」十代の女性。「私たちは恋愛はしない」「すべては戦争が終わってから」と出征した彼女たちだが、実際の戦場では、淡く甘い経験も珍しくなかったらしい。

とはいえ本作の場合、それが淡い想い出のままでは終わらない。いわれなき差別や、戦場で芽生えた恋の破綻など、戦後の辛く苦しい日々が包み隠さず描かれる。戦場での出会いから復員後に結婚したものの、「君は軍靴と巻き布の臭い」だと、「香水の匂いがする」他の女性へと去ってしまう男たち。彼女たちの戦争は、戦後の平穏な生活すら奪ってしまうものだった。

彼女たちの証言に忠実な記述から構成される原作では、戦記や戦史、戦争の実態を多少なりとも把握していなければ、イメージを掴みづらいかもしれない。悲惨で衝撃的なエピソードから、その日々に秘められた彼女たちの想いを、見過ごしてしまいがちなので……。

従軍女性の想いを真っ直ぐに力強く伝える“漫画の力”

その点、詳細な描写が伴うコミカライズ版では、イメージが一気に膨らみやすくなる。適度なオブラートに包まれた世界観は賛否両論ありそうだが、いきなりタフな原作を読みづらい方には、コミカライズ版をお勧めしたい。

見知らぬ土地の戦場風景、実際に見たことがない兵器・武器、そして何より、生き生きとリアルな女性兵士たちの表情・服装・仕草。ときにホッとし、微笑んでしまうようなひとコマひとコマは、きっと読み手の心を支えてくれるはずだ。

コミカライズを担当する小梅けいと氏は、代表作『狼と香辛料』(原作・支倉凍砂、キャラクターデザイン・文倉十、KADOKAWA)などでもカルト的な人気を得ている漫画家。擬人化キャラが得意な作家というイメージも強かったが、本作では完全にひと皮むけ、殻を破った印象も受ける。

女性描写の細かさや表現力に長けた画力・作風を存分に発揮しつつ、ペン描きの荒々しく力強い線画が、戦場に赴いた女性たちの強さや真っ直ぐな想いを象徴的に描き出す。構成・演出に若干の粗さや未熟さを感じさせるものの、“漫画の力”を感じさせる力強さは、何よりの武器といえそうだ。

「戦争は呪わしいにせよ、俺たち(私たち)の栄光の時!」。

作中で描かれるこの言葉は、戦地に赴いた兵士たちに共通するエピグラフだという。その真意と、深い意味を考えずにはいられない読後感は、本作を読み終えた者だけが得られるものだろう。

著:小梅 けいと, その他:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
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著:スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ, 翻訳:三浦 みどり
¥1,540 (2024/04/14 02:46時点 | Amazon調べ)

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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