「生きる」こと、「死ぬ」こと、その本当の意味を考える——『死役所』

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『死役所』あずみきし/新潮社
目次

多彩な生き様・死に様から自らの生を見つめ直す

死者が生前の姿のまま、死後の手続きを済ませるために訪れる「死役所」。

彼岸と此岸の狭間にあり、成仏か、冥土の道か、ここで行き先が決まる。

自殺課、他殺課、病死課、交通事故死課など複数の課が存在し、手続きをすることで死者は初めて自分の死と向き合う。

『死役所』は、あずみきし氏による、さまざまな人物の生と死を描いた濃密な人間ドラマである。

1〜3話程度の完結型のストーリーで読みやすく、考えられるあらゆる死の形がリアリティを持って表現されている。

いじめを苦に自殺した少年、大量殺人を犯した死刑囚、病死したお笑い芸人、父親を殺した犯人と同じ男に殺された定食屋店主、虐待の末亡くなった少年……。彼らの死の直前までの生々しい生き様が淡々と描かれ、「生きる」とは、「死ぬ」とは何かを深く考えさせられる。

ストーリー上では彼らの死後が描かれることもあるが、当の本人は死後の出来事を知る由もなく、49日以内に手続きを済ませねばならないため、もう誰にも会うことができない。死はまさしく、終わりなのである。

彼らの人生に触れることで、突然訪れる死の衝撃や抱えた後悔を疑似体験し、いつの間にか自分に置き換えて考えてしまうのである。

本作が秀逸なのは、死が美化されることなく、ありのままに描写されているところ。涙の出るような感動的な生がある一方、悔いの残る悲惨な生もある。 第1巻第2条の恩人を救った前科者の少女のストーリーでは、彼女の死に本当に意味はあったかと考えざるを得ないし、第3巻第14条の今時の女子高生のストーリーでは、現代におけるネット社会の深淵を垣間見たように思う。

著:あずみきし
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死者に触れ、自らの罪と向き合い顧みる死刑囚のストーリー

『死役所』は誰かのストーリーであると同時に、そこで働くシ役所職員「死刑囚たち」のストーリーでもある。働く職員たちは全員が元死刑囚で、名前にカタカナ表記のシの文字を持つ。

主人公は、ニヒルな笑顔が特徴の総合案内を担当するシ村という男で、娘を殺害した容疑をかけられ、冤罪のまま死刑となる。

シ村の哀しい過去は、ストーリーが進むにつれ明らかになっていく。

他にも、不倫相手を殺害した自殺課のニシ川、姪を襲った少年を殺害した他殺課のイシ間、妻と子ども・不倫相手を殺害した生活事故死課のハヤシら職員の過去と、多くの死者と触れ合う中で次第に罪と向き合い、内省する様子が丁寧に描かれている。

読者は、彼らの罪を犯すに至る経緯や心の動きを読み取り、「なぜ人を殺してはいけないのか」「なぜ犯罪はいけないのか」という根源的な問いと向き合うことになる。

本作は、現代を懸命に生きる「誰か」のストーリーであり、また、いつかの「自分自身」のストーリーでもあるのかもしれない。考えさせられる場面が多く、哲学的な要素も含む。複雑な読後感を味わうためにも、読むだけの価値のある作品と言えよう。

読者の数だけ答えのある、示唆に富んだ作品

『死役所』は、生の素晴らしさや死の恐ろしさを改めて感じさせてくれる、精彩を放つ傑作だ。 『月刊コミック@バンチ』にて連載中で、現在第23巻まで発売済。

充実した死を迎えるために、どのように生きるべきか。悔いのない死を迎えるために、私たちに今できることは何か。本作を楽しむ中で様々なヒントを見つけ、これからを生きる糧としよう。

生死の在り方を考え、死刑囚の成長を見守る。読者の皆さんには、本作に登場し続ける「誰か」に触れ、自らの生を見つめ直してほしい。

著:あずみきし
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脚本:政池洋佑  監督:湯浅弘章  出演:松岡昌宏, 黒島結菜, 清原翔, 松本まりか, でんでん, 織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.), 福崎那由他
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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