『断罪六区』−−−死刑囚が収容される街で下される裁きとは。新たな世界観で罪と罰、裁きについて描いた良作

当ページのリンクには広告が含まれています
『断罪六区』(原作・小林靖子、漫画・ののやまさき/講談社)

※ややネタバレあり

目次

死刑囚が辿り着く先で、もし刑が正しく執行されない者がいたら−−−

死刑囚に情けは必要か。

通常死刑判決が確定した者は拘置所に拘禁され、執行を受けるまで心休まらない日々を過ごす。執行の事実は、被害者または被害者の親族の希望があれば、通知され、加害者は死を以って罪を償うことになる。日本には古くから、罪人を離島などに送る流罪と呼ばれる刑罰があり、これも実質的には死罪に近いものだった。中でも、最も遠い距離の地に流される遠島刑は江戸時代、死罪に次ぐ重罪とされたが、辿り着いた島で生き延びる者もいた。

現代の死刑は明瞭だが、流罪では罪人のその後が被害者には分からない。もし現代社会に流罪が復活したら、人々はその罰則を認められるだろうか。流罪の先で罪人が生き続けていたとしたら、彼(女)らに人権はあるのだろうか。生きて罪を償う姿勢を見せていれば大罪人にも情けをかけるべきだろうか。

それらの問いに対する答えを探すのに相応しい作品がある。

『断罪六区』は、死刑囚が送られる街における、僧侶の裁きを巡る戦いを描いたサスペンス漫画である。ありそうでなかったユニークな設定と滑らかな展開、繊細な心理描写が光る良作。死刑囚とはいえ、人が人を裁くことはできるのか。罪と罰とは−−―さまざまなことを考えさせられる。

舞台は、人を死に至らしめた者には死刑が宣告される世界。

死刑囚は「刑務街第六区」という街に収容され、事情によって執行猶予がついた者は時が来るまでそこで過ごす。時がくれば腕輪と首輪によって死刑が執行される。第六区では、時間=通貨という経済体制が敷かれており、労働などで通貨(時間)を稼げば、その分死刑の執行期間が延びるのだ。

第六区を訪れた主人公の教誨師(別名・笛吹男/パイドパイパー)・ユウシンは、被害者からの依頼を受け、確実に死刑を執行する。死刑装置にトラブルがあった際の保険要員である死刑執行人・クノジに私刑だと非難され一度は対立するが、ボディガードとして雇うことで協力関係に。

果たして、ユウシンの行いは正しいのか。罰とは何か、贖罪とは何かを問う。

著:ののやまさき, その他:小林靖子
¥759 (2024/04/13 01:56時点 | Amazon調べ)

強制的な死刑執行は死刑か私刑か。正しい裁きとは、罰とは

美麗な作画と細やかな情景描写により、独特な世界観を生み出している。キャラクターも立っていて、自然と物語に引き込まれる。やや文字の印象は強いが、登場人物の表情が豊かに描出され、特に負の感情が丁寧に表現されているので気にならない。展開に無駄がなく、迫力と躍動感のある戦闘シーンは見もの。街並みや服装、武器に注目すると、さまざまな時代の日本の感性が入り交じっていて面白い。

人が集まれば街ができ、営みができる。しぶとく生きながらえる者も、不正を働く者も出てくる。死刑判決を受けながら、時が来ても執行されない者を裁くのは私刑なのだろうか。確実に死刑を執行せんとするユウシンと、必要以上の苦しみを与えまいと情けをかけるクノジ。正しいのはどちらだろう。ユウシンは犯罪被害者であり、被害者の立場からすれば、気持ちを理解して刑を執行してくれる彼は正義である。だが、倫理的に正しいのはクノジかもしれない。ユウシンの対象者は徹底的に悪に描かれているから、多くの読者は彼を支持すると考えられる。それでも、人に人は裁けない。ユウシンの行為は断罪ではなく、殺人にすぎないのかもしれない。感情論でなく、誰の意見にも流されずに考えた時、あなたはどう思うだろうか?

罪と罰、裁きについて描かれる本作。正解は分からない、それでも考えなければならないテーマである。ユウシンと行動を共にするクノジの罪はまだ明かされていない。物語が今後どのような展開を迎えるのか、この先に期待したい。そしてどのような結末を迎えるのか、楽しみでならない。

死刑囚を巡る、答えのない裁きがテーマのサスペンス漫画

『断罪六区』は、原作・小林靖子氏、漫画・ののやまさき氏による、死刑囚が収容される刑務街第六区で死刑を執行する僧侶・ユウシンの戦いを描いたバトルサスペンス漫画である。

講談社による漫画アプリおよびウェブコミック配信サイト「コミックDAYS」にて2022年より連載中、既刊2巻。

余談だが、筆者はタイトルの語呂が好みだ。

果たして、断罪するのは時間かユウシンか。完璧に隔離された流刑地がなければ流罪は成立しない。つまり社会と隔離した場所に収容所を作っても、僅かでも接点を持たせてしまえば意味がないのである。刑務街第六区を断罪六区にするためには、徹底的な管理が不可欠だ。ユウシンに刑務官として死刑執行の権利が法の下に与えられれば、丸く治るのかもしれない……。とはいえ、死刑囚が集まり街を作ってしまえば、徹底的に管理するなど不可能。結局、死刑囚を生まないという根本的な答えに辿り着く。

裁きについて読者の皆さんはどう考えるか。本作に触れ、改めて考えてみてほしい。

著:ののやまさき, その他:小林靖子
¥759 (2024/04/13 01:56時点 | Amazon調べ)

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

コメント

コメントする

目次