ひと筋縄ではいかないアイドル業界を舞台にしたミステリー
アイドルを扱ったマンガ作品と聞かれた場合、テレビアニメ第1期が好評ですでに第2期制作も発表されている、ここでもかつて取り上げた『【推しの子】』(赤坂アカ、横槍メンゴ/集英社)を挙げる人も多いと思う。そんなアイドルをテーマにした作品に、期待の超新星が誕生。斬新で先読み不能な展開で読み応え抜群の『【推しの子】』に、引けを取らない面白さで夢中にさせてくれるのが『私のアリカ』だ。
アイドルグループ「りりかるトリック(りりトリ)」のメンバー・真宮アリカが謎の失踪を遂げ、1年以上、事件に進展がないまま、第3期新メンバーオーディションが再開。そこにアリカの親友である宮嶋ナナが、グループに潜入して真相を究明するために参加するというのが、本作の基本的な展開だ。
アリカがいなくなった事件の真相を追っていくだけでもミステリーとして楽しめるが、本作ではグループに潜入するまでのオーディションの裏側を濃厚に描いている点が興味深い。
キラキラではなく“闇”にスポットを当てた作風が刺さる
ナナが参加しているオーディションは最終段階を迎えていて、ライブの観客投票やオンライン投票、特設サイトや毎週実施される人気投票といった各順位を総合した結果、6人中上位3人が新メンバーに選ばれることになる。現実でも見かけられるような内容だが、オーディションの模様や舞台裏、さらには人間模様といった華やかさの裏にあるものを丁寧かつダイナミックに描き出す。
もちろんエンタメとしての脚色やデフォルメはされているものの、歌やダンスのレッスンだけでなく、ファン獲得のためSNSを駆使する姿や候補生同士の腹の探り合いや妨害工作なども描写。さらにアイドルを目指す子たちの葛藤も盛り込まれるなど緊迫感がありゾクゾクさせられる。
テンポ感と引きの強さでグイグイ引っ張られる
第1話で早くも「りりトリ」の運営やメンバーによる犯行の可能性に言及するシーンや、何か裏がありそうな描写も出てくるのだが、そこは『御手洗家、炎上する』(講談社)などで知られる藤沢もやし氏が原作を手がけているだけある。
引きが強い展開にリアリティーを醸し出す盛り上げ方が◎。今のところ直感と感性で突っ走るタイプのナナだけに、周囲に置いた仲間キャラクターのスペック、そして随所に盛り込まれる真相をほのめかすような後ろ暗い描写がドラマを盛り上げる。バランス良く散りばめられたミステリーとアイドルという2つの縦軸がこれでもかと効いている。
2巻ではナナの成長を中心にストーリーが進行していく中、終盤、アリカに関する衝撃の事実が明らかに。物語の始まりとなるアイドルの失踪やオーディションに参加する子たちの深層心理など、本作はどこまでも闇を描き出しているのも面白い。2023年10月には3巻が発売予定なので、気になる人は今の人に追いついておくことをおすすめしたい。
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