事件に翻弄される人々の心理を見事に描いた力作。「明日は我が身」を忘れるなかれ——『ROUTE END』

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『ROUTE END』(中川海二/集英社)

※ややネタバレあり

目次

多彩な事件における被害者・加害者の心理を丁寧に描いた秀作

治安が良いとされる日本においても、日々どこかで事件は起きている。

全ての人が被害者にも加害者にもなり得る。あらゆる事件が決して他人事ではない。ひとつ言えるのは、法治国家では法を破った者こそが悪だということ。詐欺や性犯罪の被害者に対して「自業自得」という人が稀にいるが、悪いのは当然法を犯した加害者だ。仮に被害者に落ち度があったとしても、赤の他人に責める権利はどこにもなく、まず裁かれるべきは加害者なのである。慈悲の心を持った者が多いということかもしれないが、被害者の粗探しをする前に徹底的に加害者を糾弾しない限り事件は増え続けることだろう。

また、事故や自死によって大切な人を失った人の中には「あの時こうしていれば」と自分を責める人がいる。事件や事故を前に、多くの人が他者や自分を責めるのはなぜだろう。やり場のない悲しみや憎しみ、怒りから解放されようとしているのだろうか。自死遺族や事件の被害者、加害者、周囲の人々の心理、行動が巧みに描かれた、実に興味深い漫画作品がある。

『ROUTE END』は、特殊清掃員の春野が周囲で起こる“END事件”と呼ばれる連続猟奇殺人事件の謎に迫るサイコサスペンス漫画。いつかは考えるべきさまざまな問題が含まれていて、謎解きを楽しむミステリーとしてはもちろん、道徳書として楽しむこともできるだろう。

特殊清掃員の主人公・春野太慈は、幼い頃に母親を自殺で亡くした自死遺族であり、その穴を埋めるため「特殊清掃アウン」で働いている。春野の住む県では、解体された遺体がENDの文字に並べられることから “END事件” と呼ばれる連続バラバラ殺人事件が起きていた。会社の社長・橘浩二が被害者となったことで春野も次第に事件に巻き込まれ、捜査一課の五十嵐秋奈の協力を得つつ犯人を追うことに。果たして、懸命な捜査の末明らかになった犯人とは。隠された事件の真相に迫る。

著:中川海二
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映像作品のような多視点コマ割り、スムーズな展開で読者を飽きさせない

映像作品のような視点の切り替え、考えられたコマ割り、テンポの良い展開によって、ページを捲る手がスムーズに進む。体躯のバランスや崩れなど絵柄には少々気になる部分もあるが、背景や風景、登場人物たちの表情は丁寧に描かれているので読書欲を邪魔するほどではない。事件と向き合う人々の行動や心理状態の描写がとにかく素晴らしく、それだけで読む価値がある。

ただ猟奇殺人事件を扱っただけの作品とは一線を画す、人間の心の機微やそれに伴う行動に焦点を当てた優れた内容。

自死遺族である主人公・春野の他にも、自分の運転する車で事故に遭った者、先天性の病気によって自然妊娠ができない者、実父からの性的虐待に悩む者など、さまざまな痛みを抱えた者達が登場する。たったひとりで苦しみから逃れるのは難しい。ひとりでも心を開ける人がいれば、事態はきっと変わるだろう。自死を選ぼうとしている人は、本作を読めば、己の死がどれだけの人の心に影を落とすかが分かるはずだ。社会の中で生きている限り、誰にも影響を与えない死などない。天涯孤独を理由に自死した人がいたとしても、その体を発見する者がいて、その痕跡を清掃する人が必ずいる。死してなお、人はひとりでは完結できないのだ。

“END事件”の真相は実に印象的で、犯人の動機も妙にしっくりくる。隠された真実に触れた時、あなたは何を思うか、ぜひ確かめてみてほしい。

死は唐突に訪れる。病気ですら、予期することは難しい。死を前に人は平等であるのに、自死の場合自ら“死ぬ日”を決めてしまうから、遺された人々からたくさんのものが奪われてしまうのかもしれない。いつかくるその日まで、一日一日を大切に、すべきことを後回しにすることなく、私たちは精一杯生きるべきだろう。読み物としても秀抜なので、何かを心の内に抱えている人、周りにそんな人がいるという人にとって、問題と向き合うきっかけになれば良い。

グロテスク描写がメインではない、猟奇事件を扱った特異な漫画

『ROUTE END』は、中川海二氏による、“END事件”の真相と生死の在り方に迫るミステリー漫画である。集英社による漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」のアプリ・WEBサイト「少年ジャンプ+」にて2017〜19年まで連載され、既刊8巻、完結済み。各電子書籍サイトでも購読できる。

あらすじを読んで敬遠する人もいるかもしれないが、グロテスクな描写は想像より少なく、生々しさがないので問題ないだろう。その行為自体がテーマではないため残酷な表現もさほどなく、物語の一部として受け入れられる。

多彩な観点から考えさせられる重厚な物語。

正直納得し難い設定もあるのだが、それを除外しても十分楽しめる。よく出来た構成なので、途中でラストシーンが浮かぶこともなく、ワクワク感・期待感が薄れることもない。まとまりの取れた上質な全8巻、スキマ時間にぜひ一気読みを!

著:中川海二
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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