22年前に王道の少女漫画誌で念願の漫画家デビューを果たすも、その後5年間鳴かず飛ばず……。が、ある時ふと描いてみた「お相撲さん(に憧れるケーキ職人見習い)」のコミカルなキャラクターの漫画が思わぬヒットを飛ばし、なんだかんだと言いながらすでに17年も連載を続けてきた40歳独身の漫画家が、同居していた実妹の結婚を機に一念発起。夢だった「キラキラ系の胸キュン少女漫画」を描くべく、恋に仕事に奮闘する姿をコミカルに描いた『ローズ ローズィ ローズフル バッド』。主人公と似たような悩みを持つ漫画家が描いた「実録風漫画」なのかと思いきや、実は現役バリバリの少女漫画界のレジェンドであり恋愛漫画の名手として知られる、いくえみ綾による最新作であるというところもひねりが効いているうえに、お相撲さんキャラの「ファブ郎」が主人公にツッコミを入れながらストーリーテラーを担い、客観的な視点から主人公の行動を紹介していくという手法もなんとも興味深い。
19歳のイケメン大学生と、爽やかなバツイチの父親が現れて……
キラキラ系の少女漫画を描きたい意欲だけは満々ながらも、自身は数えるほどしか恋愛経験がなく、いまや「胸キュン」センサーもすっかりさびついている様子の漫画家・神原正子、40歳。ある日、カフェでたまたま隣に座った19歳の男子大学生・鷹野廉と、飼っていた愛猫の話題をきっかけに言葉を交わし、その帰り際、お菓子の食べかすが口元についたままだった彼女に廉がやさしく声をかけてくれたことから、久しぶりに胸をときめかせる……が、それが自身の少女漫画のネームに活かせるなどとは考えもせず、そんな貴重な出会いも見逃してしまう。
まぁ、20歳以上も年下の若者を相手に突っ走れないのも無理はないが、妹の直子には「ネットワークークは大事だよ」と諭され、「その子じゃなくても、お兄さんとか、年の離れたイトコとか……。案外、その子のお父さんがイケメンのバツイチで、第二の人生を始めようと思っていたところで二人は恋に落ち、でも息子の方も気になっていて……。そんな危うい関係のまま、40歳漫画家とイケメン親子の新生活が始まるのよ……!」と直子の妄想は止まらない。
その後、正子はなんとか少女漫画のネームを描き上げ担当編集者に提出するも、芳しい反応は得られない。そんな中、もういい加減、見切りをつけようと思っていた例の「ファブ郎」を主人公にした漫画が、出版社の漫画賞の審査員特別賞を受賞。その授賞式の会場で正子は爽やかなドラマプロデューサー鷹野怜から声をかけられる。怜はカフェで知り合った大学生・廉の父親で、バツイチの独身であることも後に判明する。まさに妹、直子が妄想した通りの展開に……!? これで「少女漫画が描ける!」とビビッときた正子は、「胸キュン」要素が足りない乾いた日々から脱出するため、鷹野親子に対しアクションを起こすことにする……。
「オトナのラブコメ」&「リアルなお仕事漫画」のハイブリッド感が魅力!
久しぶりの「胸キュン」に翻弄されるアラフォー女性のラブコメ要素を軸にしながらも、「普段、漫画家がどんな風にネームを考えているのか」「入れ替わりの激しい担当編集者たちと、どんなやりとりを交わし、日々どんなことに悩んでいるのか」といった、漫画家の生態を垣間見ることができる、「リアルなお仕事漫画」としても存分に楽しめる。
いくえみ綾といえば、1979年に14歳で漫画家としてデビューして以来、『POPS』『彼の手も声も』など、アラフォー世代の女子たちが思春期の頃に夢中になった少女漫画の王道的な作品から、『あなたのことはそれほど』や『G線上のあなたと私』といった人気ドラマの原作、さらには犬猫好きから共感を集めるコミックエッセイに至るまで、40年以上にわたって多種多様な作品を次々生み出し続け、2000年には『バラ色の明日』で小学館漫画賞を、2009年には『潔く柔く』で講談社漫画賞を受賞したベテランだ。
本作のあとがきでは「漫画家の話ではありますが、主人公は私ではありませんよ? 本当に違いますよ?」といくえみ自ら念押ししているが、そんな酸いも甘いもかみ分けてきたであろうベテラン漫画家が紡ぐ「ラブコメお仕事漫画」が、果たしてこれからどんな展開を迎えるのか、いまから続きが読みたくて仕方がない。