『新しいきみへ』――物語の開幕から終幕まで期待と興味をかき立て続けてくれる変幻自在な吸引力を持つ秀作【一気読みのすすめ】

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『新しいきみへ』(三都慎司/集英社)
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恋愛ものを入口にしながらその先に待つのは……?

追い続けている作品はどれも好きだし面白い。そんな読み続けていた作品が最終回を迎えたとき、一抹のさみしさは覚えてしまうものの、それでも「読んで良かった」と心の底から思えるのは、とても幸せだ。最近、そんな素晴らしい作品がまたひとつ。それが今回紹介する『新しいきみへ』だ。

第1話で主人公の高校教師・佐久間悟は、妻の浮気らしき現場を目撃。ショックから突発的に傷心旅行へ向かい、各地を転々とした結果、故郷の神奈川・小田原でひとりの少女と出会う。悟は不貞を働きそうになるも思いとどまり、日常へ戻るが、新学期、担任を受け持つクラスの生徒の中にその少女がいて……といった、いかにも恋愛ものテイストな展開で幕を開ける。

ところが、冒頭やその後にも差し込まれる、悟の夢に出てくる少女の存在が物語に不思議な彩りを添える。彼女は小田原で出会った少女と似ているものの、悟は会ったことはあるが誰だかは思い出せず、しかも夢の中で「きみはまた失敗した」と言ってくる。何とも言えない意味深さを醸し出し、読者の興味を思いきり惹きつけてくるのも見事だ。

著:三都慎司
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ストーリー展開と仕込みの巧みさに圧倒

第2話以降でも小田原で出会い、今は教え子でもある相生亜希(あいおい・あき)に訳知り顔で翻弄され続ける悟。亜希の小悪魔ぶりもさることながら、悟の慌てぶりも見ていてなんだか可愛らしい。このまま悟と亜希のやりとりを見続けるのも悪くないと思っていた矢先、第3話のラストでショッキングな描写が飛び込んできて、なにやら不穏な気配を漂わせてくる。

ここにきて第1話終盤で、ニュース音声として自然な形で流れていた新型ウイルスに関する話題も、小さな違和感から得体の知れない何かを暗示する要素へと一気に格上げして考察できる。読者の興味を引くのが実にうまく、恋愛もの要素を巧妙に隠れ蓑として先の展開を読めなくさせる手腕には惜しみない拍手を贈りたい。

毎話、悟と亜希を中心にストーリーが進んでいくものの、回を追ってもその全貌をなかなか見せない構成は、絵柄とスピード感、洗練された謎の散りばめ方などの相乗効果で素直に展開が気になり、心地いい吸引力にグッと魅了されてしまうのだ。

作品の「始まり」と「終わり」――いずれの読後感も爽快なのが◎

本作は2023年10月に発売された「ウルトラジャンプ」(集英社)の11月号で完結。その後、12月に最終巻となる6巻が発売された。連載中はもちろん、完結した今となってはインターネットで検索をかければさまざまな情報の入手が可能だが、できれば極力、前情報は少なくして読んでほしい。

今回紹介した内容から何となくどのようなジャンル要素が盛り込まれているか想像つく人もいるかもしれないが、そこは明言しないでおく。仮に明言したとしても、その想像を飛び越えたり飛び跳ねたり、ときには潜り込んだり、さまざまな手法で覆し、読み手を楽しませてくれるはず。しかも伏線の張り方と回収の仕方が、どこまでも健やかで爽やかな読み味がとてもいい。

タイトルの『新しいきみへ』に関しても物語途中できっちり明示し、そこに込められた意味がわかったときに生まれる感情も作品のスパイスとなり、切なさや愛おしさがあふれてくるのも興味深い。

最初から最後までスピードを緩めることなく駆け抜けた本作。欲を言えば各キャラクターへの深掘りをもう少し見たかったが、あえて走り続けたからこそたどり着いた境地、読後感、キャラクターたちへの想いがかけがえのないものに思えるのもまた事実だろう。最高のスタートダッシュからトップを守り抜き、素敵なゴールへとたどり着く。いつまでも読みたくなるし、繰り返し読みたくなる。完結をしたからこその一気読みをおすすめしたい。

著:三都慎司
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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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