『アンリミテッド(Unlimited)』――サイコパスがサイコパスを追う、危険な新感覚サスペンス

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『アンリミテッド(Unlimited)』(亜月亮)
目次

サイコパスの才能を秘めた高校生が犯罪捜査に協力

「サイコパスは才能である」――こんな説を聞いたことがあるだろうか。

そもそもサイコパスとは、「反社会性パーソナリティ障害」に分類される障害のひとつだ。サイコパスと呼ばれる人間は、良心や罪悪感が欠如している、他人への共感意識が極めて低い、平気でウソをつくなどの特徴を持つ。その特質ゆえに「サイコパス=犯罪者」というマイナスイメージが強いが、大企業のCEOや弁護士、政治家、外科医など、社会的に成功を収めた人の中にも、「サイコパス気質」を持つ者が少なからずいると言われる。時に経営のために多くの人々をリストラしたり、手術で身体にメスを入れるためには、いちいち「人の痛み」に共感していては務まらないからだ。

さらにいうと、サイコパスは恐怖心が薄く、スリルを好む傾向にあるため、プレッシャーにも強い。ゆえに、極限の状況でも、能力を最大限に出し切ることができる。

とは言え、一般社会の中で可能性を生かせず、マイナスの方向に向かうと、サイコパスは残忍な凶悪犯罪に走ることもある。そんな彼らの思考は、なかなか常人には理解しがたいかもしれない。だったらいっそ、同じサイコパスならばわかるのではないか――。「毒をもって毒を制す」ように、サイコパスにサイコパスをぶつける。そんな試みを描いた漫画が『アンリミテッド(Unlimited)』だ。

叔母とふたりで暮らす高校1年生・桐流零央(きりゅう れお)は、ある日突然、警察の「刑事部科学捜査研究所特殊犯罪心理捜査係」主任・神室と部下の鷹村から、「連続皮剝ぎ殺人事件」の捜査協力を要請される。理由は、先日学校で受けた心理テストの結果。実はそれは、未成年者の中から潜在的なサイコパスをあぶりだす「サイコパシー値(レベル)テスト」だった。零央の得点(スコア)はトップクラスのサイコパシー値を記録しており、しかも事件の容疑者・吾川が過去に受けたテスト結果と96%一致。思考パターンがほぼ同じなことを活かして、行方不明になっている吾川の行動を予測してほしいという依頼だった。心理学者で、テストの作成者でもある神室から、周囲には秘密にしたい母親の「罪」を持ち出され、半ば脅される形で協力させられた零央。初めは乗り気でなかったが、捜査が進むにつれ、同じ思考パターンを持つ吾川にシンクロし始める……。

著:亜月亮
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残忍な事件が呼び覚ます本性! 人間と怪物の境界線の行方は……

作者は、かつて「りぼん」(集英社)で少女漫画を発表していた亜月亮氏のため、作画は繊細にして秀麗。クスリと笑えるコメディシーンも多々ある。それだけに、顔の皮を剥がされた遺体や「殺害した人間の皮をかぶって出歩く殺人鬼」など、恐ろしい場面の異様さが一層際立ち背筋が寒くなる。

サイコパス度を暴かれて以降、神室たちの前では本性を隠さなくなった零央のギャップにも注目だ。悲惨な状態の遺体を前にしても顔色ひとつ変えず、「触りませんよ。動物の死体って汚いし」など、かわいい顔をして無神経に思えるセリフを吐きまくる。遺体を見て帰ってきたにもかかわらず、萌子に「何かいい事あった?」と聞かれるほど上機嫌になってしまう。

実は零央の母は、零央が幼い頃に自殺していた。マスコミで報道こそされなかったが、大掛かりな犯罪グループのボスを陰で操っていた疑いがあり、逮捕される直前の出来事だった。零央は「あの女」呼ばわりするなど母を嫌悪しているが、そのサイコパス度は多分に息子に受け継がれてしまったようだ。

母を亡くしても「泣いたフリ」をしてやり過ごし、施設の隅でやたらと虫を殺して遊ぶ……そんな幼き零央を引き取ったのは、母の妹である萌子(めいこ)だった。出版社勤めの萌子は、A5ランクの和牛を焼きそばに使い、毎回目玉焼きを焦がすなど残念な料理センスの持ち主だが「朝食だけは必ず一緒にとる」「土曜の夜は家族で映画を観る」など、独特の家庭内ルールを作っては常に甥っ子に寄り添い、愛情を注いでくれた。学校で友人と他愛無い話をし、年上の彼女もいるなど(登場早々、零央が怒らせて別れたが)、一見“普通”の高校生に育ったのはひとえに萌子の存在が大きいだろう。

さらに、零央をスカウトした神室自身、サイコパシー値はトップクラス。零央と神室、サイコパス同士で交わす会話は不謹慎かつ物騒な内容で、周囲の人間が(頭がおかしくなってくる……)(キモイ話してんなー……)と引くほど。「無駄に人をイラつかせる」物言いをし、一見すると軽く捉えどころのない神室だが、零央を捜査に引き込んだ時から、その危険な本質を見抜いた上で、ひそかに「人間が怪物に変わる瞬間」を間近で見ることを期待しているという思惑も。

そして、最大の理解者にして保護者である萌子が吾川に誘拐され、事態は急展開を迎える。零央の中で湧き上がるのは、自責の念と吾川への怒り、初めての衝動。それは紛れもなく、「殺意」と呼べるものだった。果たして、萌子の安否は。萌子というリミッターが外れかけた時、零央は「怪物」へと変貌してしまうのか――? 結末はぜひ、本書1巻「VSシリアルキラー」で確認してほしい。

懐かしのキャラが再登場!? かつての「りぼん」連載漫画家による“ほぼ30周年記念本”も出版予定

作者の亜月亮氏は、月刊少女漫画雑誌「りぼん」にて代表作『Wピンチ!!』(集英社)などの発表を経て、近年はホラーや動物ものなど、幅広いジャンルの作品を描いている。『アンリミテッド(Unlimited)』は各種電子書籍サイトで読めるほか、通販サイト「あずき堂。」経由で紙書籍も販売中。既刊2巻。1巻完結型なので、どちらから先に読んでも楽しめる。

作者の過去作の登場人物たちも、続々登場。『闇都市伝説』(秋田書店)3巻収録「ゲームモンスター」に出てきた熱血刑事・鷹村や天才ハッカー小学生・光琉(ヒカル)が本書に再登場している。シリーズを超えたコラボがファンには嬉しい。

2巻「VS絞殺姫」では、同じく『闇都市伝説』4巻収録の「サイコパス診断」に登場した美少女・鷺嶋あゆが主要キャラの1人として描かれる。あゆは華奢で愛らしい外見を持ちながら、何人もの人間の首を絞めて殺害し、ネット上で「絞殺姫」と崇拝するファンがいるほどの有名犯罪者。無邪気さと冷酷さを併せ持つ、吾川とはまた違ったタイプのサイコパスだ。3巻以降続刊の可能性も示唆されており、特殊犯罪心理捜査係メンバーの凸凹チームワークとさらなる活躍に期待が高まる。

亜月氏がデビュー30周年の節目を迎える2023年は、さらに大掛かりなコラボが展開中。『夢色パティシエール』(集英社)の松本夏実氏、『ケロケロちゃいむ』(集英社)の藤田まぐろ氏と共同で、「デビューほぼ30周年組」による記念本を独自に発刊予定だという。亜月氏が手がけるページでは、『Wピンチ!!』の河合ありさ&八代暁名、『ラブわん!』(集英社)の大月のあ達メインキャラクターのその後が描かれるらしいので、かつての“りぼんっ子”にとっては懐かしさ満点。「りぼん」掲載の亜月氏作品といえば、犬、フェネックギツネ、カンガルーなど、作品ごとに愛くるしい動物が登場し、動物好きにはたまらなかった。さて、30周年記念本では何かが登場するだろうか……? 作者陣の公式X(旧Twitter)などで進捗が少しずつ発表されているので、出版の朗報を気長に待とう。

著:亜月亮
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この記事を書いた人

情報配信会社や冠婚葬祭会社勤務を経て、編集プロダクション「アドバンスワークス」所属。TV雑誌記事やSEO記事の編集、執筆を担当。都心情報サイト&親子を結ぶ介護サイト準備中。好きなものは猫、ミステリー。

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