“ジャケ写”の圧倒的なパワーと短篇の構成に打ちのめされる「失恋物語」—— 『失恋日記』

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『失恋日記』(柏木ハルコ/祥伝社)

※ネタバレあり

『健康で文化的な最低限度の生活』(小学館)の柏木ハルコによる短編集。「別れる」「DIARY」「夫の片思い」「初恋ガーディアン」「裸のえろ」「憧れのブルマ」の6篇からなる本作。各話のストーリーはもとより、ひと目見た瞬間に釘付けにならずにはいらなれない、どアップの“ぽってりしたくちびると泣きはらした目”の表紙ビジュアルの圧倒的なパワーに引き込まれた。今回はビジュアルの持つ力から漫画の魅力を紹介したい。

著:柏木ハルコ
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目次

電子コミックサイトの誕生でさらに際立つ表紙ビジュアルの吸引力

漫画の魅力はプロットやコマ割り、登場人物のセリフや作画との相性など、複合的な要素が一体となって生み出されるものである。特に電子コミックサイトが誕生してからというもの、いわゆる「ジャケット」的な扱いとしての表紙ビジュアルのインパクトもこれまで以上に重要になってきているような気がしてならない。一度クリックしたが最後、まったく別のサイトを開いていても、常にその漫画のジャケットがバナー広告に表示されることが多いからだ。そういった意味では柏木ハルコの『失恋日記』はまさに、筆者が思わず「ジャケ買い」せずにはいられないほどそそられる、極めてパワフルな一冊だった。

で、実際の「中身は……?」と言うと、色恋にまつわる自他の感情の取り扱いの厄介さを、6つのお話のなかに「これでもか!」と言わんばかりの濃厚さで凝縮してあるにも関わらず、読後感はひたすらカラッとあっさりした不思議な短編集なのだ。冒頭の「別れる」は、元恋人への過剰な執着を抑えられなくなった女性が、ストーカー対策用に新開発された「愛情をコントロールするクスリ」を飲むことを決意。最後の一晩を共に過ごすという壮絶な物語。

記憶除去手術を受ける元カップルを描いた映画『エターナル・サンシャイン』(2004年)を思わせるストーリーだが、秀逸なのはクスリの効力が発揮された翌朝の主人公の女の変貌ぶりだ。しつこい元カノにうんざりしていたはずの男がひとり感傷に浸っている傍らで、女は「あ、あれ? 身体が軽い!!」「なにか憑き物が落ちたみたい!」と喜び、「また連絡するよ」という男に向かって「なんで?」「この薬ってさ、もっと相手を嫌いになるとかそういうものかと思っていたけど、意外とそうでもないんだね」「このまま一生別々の道を歩むようになってもアンタの幸せを祈ってるよ」「じゃ、またね!」と笑顔で手を振り去っていくのだ。

出演:ジム・キャリー, 出演:ケイト・ウィンスレット, 出演:キルステン・ダンスト, 出演:マーク・ラファロ, 出演:イライジャ・ウッド, 出演:トム・ウィルキンソン, Writer:チャーリー・カウフマン, Writer:ミシェル・ゴンドリー, Writer:ピエール・ビスマス, 監督:ミシェル・ゴンドリー, プロデュース:スティーヴ・ゴリン, プロデュース:アンソニー・ブレグマン
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短篇集だからこその、残酷な物語の構成に打ちのめされる!

ドロドロの感情に支配されてみじめだった主人公が、執着を絶つクスリのおかげで本来のあるべき自分の姿を取り戻し、あっけらかんと爽やかにお別れする様に快哉を叫びたくなってしまった。ある種、ロマンチックな『エターナル・サンシャイン』とは真逆の感情を呼び覚ます物語であるといえる本作。

「所詮愛なんて一時の気の迷いでしかなくて、ズルズル引きずるのは結局自己憐憫に浸っているだけ!」。

そんな清々しい気持ちでページをめくると、第2話の「DIARY」できっとドン底に突き落とされる。その理由が知りたくなったら、ぜひとも本書を手に取り確認してほしい。たとえどんなに身近な人間であっても人の心の裏側は読めないし、自分の本心すら把握することさえできないのだと思い知らされるから。

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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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