『樫村一家の夜明け』一所懸命に生きる人々を力強く描いた、無比の人間ドラマ漫画短編集――どんな困難も、いつか意義ある過去になる

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『樫村一家の夜明け』(原作:岡村星、作画:沙村広明/日本文芸社)

※作品内訳

「樫村一家の夜明け」(原作:岡村星、作画:沙村広明)

「アンチ・ドレス」「ミッシングコード」(原作・作画:岡村星、スペシャルテクニカルアドバイザー:沙村広明)

目次

想像を超える苦難を前に、必死に乗り越えようとする者たちの物語

生きている限り、何があるか分からない。

予想だにしない原因で明日世界が滅びるかもしれないし、突如何か大きな事件に巻き込まれるかもしれない。未来は未知であるから、あらゆることが考えられる。「こんなことあり得ない」はないのだ。予想を超えた出来事と向き合い、それでも一所懸命に生きる人々を描いた素敵な物語がある。

『樫村一家の夜明け』は、突然降り注ぐ苦難に立ち向かう者たちを描いた合作短編集。現代社会における問題を多々含み、テーマは重いのに読後感はすっきり。考えさせられる重厚なストーリーで、胸に深く響く。とはいえ、重苦しい雰囲気はなくスイスイ読み進められるのでおすすめだ。

時間は戻らない。それでも、生きてさえいれば人生は何度でもやり直せる。自ら投げ出さなければ、人生が煌めく瞬間はきっと来る。

本作には3つのストーリーが収録されている。

長年引きこもり生活をしていた樫村タダシが自室を出ることで驚愕の光景を目にする表題作「樫村一家の夜明け」、ファッションデザイナーの志田顕がショーのため過去作を探すことから始まる「アンチ・ドレス」、街中に貼られた暗号を解いたタダシが女子高校生による殺人事件に巻き込まれる「ミッシングコード」。1作目と3作目はリンクしており、タダシの成長を見守れる点でも素晴らしい。立ち向かうことで、苦難もいつか過去になる。

著:岡村星, 著:沙村広明
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自ら考え、向き合い、戦うことで、いつでも道は拓かれる

よく考えられた奥深いストーリーで、込められたメッセージ性も強い。短編集でありながら、読み応えたっぷりで満足感も高い。

(表題作を除いて)力強い線で描かれた作画はどこか劇画調で、物語の説得力を高めている。メリハリのあるコマ割り、適度な余白、シーンごとにしっかり効いた集中線、どこをとっても漫画らしさが感じられ、映像作品を見るのとは異なる、読む楽しさに満ちている。時代に沿った電子書籍も良いが、本作はぜひ紙書籍でも読んでみてもらいたい。

引きこもりを主人公にした表題作は、勇気を出すことで心温まるラストへと繋がる展開かと思いきや、目の前には思わぬ場面が広がる。予想と違えど結果は同じ。ただ同じ毎日を過ごすだけでは変化があるはずもない。良くも悪くも、自ら動けば未来は変わる。時が過ぎるのを待つだけの人生とは訣別できる。

「アンチ・ドレス」には、承認欲求に踊らされる若者の心理が巧みに描かれている。何者にもなれず、思い通りにいかない毎日。嘘をついてでも誰かに認められたい、憧れられたい……。「いいね」を求めて彼女(彼)たちは今日もSNSを更新する。そんな日々だからこそ、なりたい自分に合った服を着るのではなく、飾らない自分に合った服を着ることも大切だ。虚構の自分を作り上げても、いつかは綻び、残るのは虚しさだけ。自分だけでもありのままの自分を愛せれば、人生は少し明るくなるはずだ。 筆者のお気に入りは 「ミッシングコード」。登場人物の女子高校生・吉沢花也の人間性が素晴らしい。創作の世界では復讐物語が溢れ、一度の過ちに対しても過激な発言が飛び交う現代。誰かに憎しみを覚えた時、何にも影響されず、冷静になって自分の心と向き合ってみてほしい。誰かがこう言ったから、皆と同じ意見だからではなく、自分自身で考え、答えを見つけるべきだ。それができれば、何度間違っても誰もが必ずやり直せる。

前向きなラストを読めば、きっと明るい明日が描けるはず

『樫村一家の夜明け』は、原作・岡村星氏、作画・沙村広明氏による、苦しみと向き合い乗り越えようとする人々の生き様を描いた漫画短編集である。男性向け週刊漫画雑誌「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)にて2018年に掲載された表題作を中心に、3作品をまとめた単行本。

上手く社会問題を含みながら、簡潔にキュッとまとめられた良作集。どのストーリーも希望のあるラストで、読後感もとても良い。

表題作は力強さと繊細さを併せ持ち、躍動感のある沙村氏の作画。筆者としては、他2作の揺るぎない太線で視覚に訴えかけてくる岡村氏の作画の方が好みかもしれない。おふたりは夫婦だそうで、作画とストーリーの親和性が高いのにも納得。ひとつの作品で異なる作画が楽しめるのも面白い。

本作を読むとタイトルの美しさにも気付けるので、まずはサクッと読んでみてほしい。「これだから漫画はやめられない」と思えるはず!

著:岡村星, 著:沙村広明
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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