歪んだ正義で悪人を滅ぼすシリアルキラー。果たしてダークヒーローか、冷酷なヴィラン(悪党)か—— 『ブルータル 殺人警察官の告白』

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ブルータル 殺人警察官の告白
『ブルータル 殺人警察官の告白』(原作・古賀慶/作画・伊澤了/コアミックス)

※ややネタバレあり

目次

世間に紛れた極悪人に裁きを下す私刑執行人を描く

今この瞬間も、世界のどこかで事件は起きている。

中には未解決になるものや、罪の大きさに不釣り合いな罰が与えられるものもあるだろう。犯罪者はすべからく罰を受けるべきである。罪を隠してのうのうと生きているなどあり得ない。更生の見込みのない者は報復されるべし。事件を知って込み上げるそんな思いを、うまく発散させてくれる作品がある。

『ブルータル 殺人警察官の告白』は、警視庁捜査第一課に身を置く壇浩輝が悪人に私刑を行うさまを描いたサスペンス漫画だ。

本作に登場する悪人は皆、清々しいほどの屑である。反省の欠片もない彼らが酷い目に遭う様子には溜飲が下がる。しかし、断罪は娯楽ではない。本作はフィクションだからこそ愉快痛快なのであって、現実と混同してはならない。そういった意味でも、実に考えさせられる作品だ。

主人公の壇浩輝は、元警視総監の父を持つ、警視庁捜査第一課に所属するエリート。表の顔は、品行方正・眉目秀麗ながら気さく。しかし裏の顔は、法で裁けない悪人に残虐な私刑を下す殺人鬼だった。

壇は、かつて“殺人宅配便”と名付けられ出所した青年、過激な取材を行うジャーナリスト、人の不幸をネタにする動画配信者らを次々と手に掛けていく。私刑を下すことを善行と捉え、殺人行為を楽しんですらいた。

壇はなぜ私刑執行人となったのか、その過去に何があったのか。身勝手に罰を与える壇もまた極悪人に違いない、果たして壇が裁かれる時はくるのか。壇の行いがどのような結末を迎えるか、見物である。

著:古賀慶, 著:伊澤了
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この物語に善と正義はあるか、真っ向から考える

悪が成敗されるのは実に爽快である。

SNS上では「目には目を、歯には歯を」の、犯した罪と同等の罰を与えるべきとの声も多く見られる。世間は悪人が徹底的に罰されるのを望むのだ。

犯罪者は紛うことなき悪であり、断罪されるのは当然のこと。だが、私人が罰を与え、それが支持されるのはどうだろう。江戸時代まで許されていた仇討ちは明治6年に禁止され、刑は国家機関によって執行されることとなった。

我々に悪を裁くことなどできない。安易に私刑や報復を支持する人々に、更生の余地を残す犯罪者の生死を握る覚悟はあるのだろうか。

本作で起こる事件は現実と似通ったものも多く、リアリティを感じる。そのため現実と混同しがちだが、登場する悪人はむごたらしい扱いを受けようと微塵も同情できないほど、明白に悪である。だが実際は分からない。ニュースで上辺の情報を知ることはできても、真実など知りようがない。

だからこそ、本作を読むことで憂さを晴らし、部外者でありながら過度に悪人を攻撃する人間にはならないでほしい。

作画は美麗で、残酷描写は実にリアリスティック。ターゲットとなる悪人が次々と現れ、ストーリーのテンポも良い。

悪人の言動と表情はどこをとっても悪そのもので、被害者は深い悲しみをまとっている。死の直前絶望に染まる悪人、それを堪能する壇、全ての表情描写が絶品で、思わず殺人鬼である壇の正義に飲まれそうになる。

本作は、読む者に善悪を問いかける。

壇の行いは復讐ではなく、被害者に依頼されたわけでもない。自らの為に悪人を殺し、死体を焼いて処理しているだけ。壇が無慈悲な方法で殺害した悪人の中には、直接的には殺人を犯していない者もいる。壇の行為は快楽殺人に他ならない。果たしてこの物語に善は、正義は存在するのか。

歪んだ正義は心優しき人々の心を惑わせる。いつしかその正義は人々を蝕み、正常な判断力を奪う。悪人には過去も未来も人権さえないと思うようになり、自らが悪になりつつあることには気付きもしない。善とは、悪とは何か。どんな状況であっても真の正義を失ってはならない。

フィクションでこそ輝く、悪を挫く殺人鬼のヒーロー

『ブルータル 殺人警察官の告白』は、原作・古賀慶氏、作画・井澤了氏による、極悪人を私刑によって殺害するシリアルキラーの主人公・壇浩輝を描いたサスペンス漫画である。マンガサイト「コミックタタン」にて2019年より連載中、既刊4巻。最新刊となる5巻は2022年5月発売予定。

同コンビによる、累計発行部数が120万部を超える人気作『トレース 科捜研法医研究員の追想』(古賀慶/コアミックス)のスピンオフ作品。

スピンオフ作品ではあるが、ストーリーは完全に独立しているので『トレース~』を未読でも問題はない。ただ、本作での壇の狂人ぶりに興味を持った人には一度『トレース~』も読んでみてもらいたい。

私刑執行人など実在しないと信じたいが、どこかにいてほしいとの思いもある。犯罪に社会的制裁は付きものだ。私刑執行人がいようがいまいが、犯した罪からは逃れられない。本作には誰もが加害者になりえる可能性が示されている。しかし、悪に染まったら最後。どこにも逃げ道はないことを理解しなければならない。

とはいえ、深く考えず、法では裁けない悪人共に究極の罰が降るさまを見てただただスッキリするのも良いかもしれない。自ら手を下せずとも、悪人はフィクションの世界でさんざん痛めつけてもらおう。二次元だからこそ楽しめ、心も晴れる作品がここにある。

著:古賀慶, 著:伊澤了
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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