現実を彷彿させる格差社会を舞台にしたクライムサスペンスは、どこへ向かうか想像つかないストーリーで期待をあおる――『ダーウィンクラブ』

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『ダーウィンクラブ』(朱戸アオ/講談社)
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既刊1冊なので“青田買い”にはもってこい

「このマンガがすごい!」をはじめ、いくつかある大きなマンガ大賞では、自分が推している作品、はたまた新たな作品との出合いなどに期待を募らせる。そこまで大それたことではないものの、誰かが読み始めるほんの些細でちょっとしたきっかけに……。そんな願いを込めて、以前も『そのモガリは熱を知らない』(NICOMICHIHIRO/講談社)を取り上げたが、まだまだ連載序盤&既刊の単行本が1巻という作品を“青田買い”的に紹介したい。

今回は、山下智久主演で2019年に実写ドラマ化もされた『インハンド』(講談社)などで知られる朱戸アオの最新連載作の一つで、「格差が生まれ続ける世界を横断するクライムサスペンス」を描いた『ダーウィンクラブ』をオススメしてみる。

あらすじは、経済格差が広まるだけでなく、少子高齢化も進むなど希望を見出しにくい状況の中、CEOと従業員の経済格差が1000倍以上の巨大企業に犯行予告が発せられる。その3年後、犯行を予告された企業の一つが襲われ、その中継放送を見ていた主人公の石井大良は、幼少時に父親を殺したと思われる男の顔を発見し急行するが……というストーリー。

第1話は主人公の幼少期のエピソードを中心にして進むのだが、いきなり衝撃的な描写が。さりげなく主人公の大良が、一度見た顔と名前は忘れない特技を持つことが盛り込まれるなど、種まきと回収のスピード感のバランスが絶妙だ。

著:朱戸アオ
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どこにでもいそうだが、どこにもいないキャラクター設定が◎

そんな大良だが、前述の特技以外はからっきし。どちらかというと間が抜けているタイプのキャラクターなのだが、そこには大良を補ってくれそうなバディ候補の存在も。1巻の時点ではどの人物がもっとも強力で頼れる“相棒”になるかは読み切れないが、できることなら最初からコンビを組んでいて大良のことを信じてくれる描写の多い宮本がいいと思っている……。1巻終盤では先読みできなそうな状況になっているのが気がかりだ。

一方で、少し怪しげで芯から信用するのは難しそうな松井もまた捨てがたい。何かと大良を邪険に扱っているそぶりを見せているのだが、その実、意外と能力を評価しているのかも。そう考えるのはうがち過ぎかもしれないが、正反対なタイプのコンビネーションというのは、どのようなジャンルにおいてもハマれば爆発力が大きいので、密かに期待しておきたい。

そんな“仲間”だけでなく、クライムサスペンスなので当然ながら身内にも敵がいる模様。大良は刑事なのだが、彼が追う人物に関する映像データが捜査本部で何者かによって消去される事態が発生。出入りできる人間は限られているため、自ずと“容疑者”は絞られるはず。そのあたりの駆け引きや考察的な読み方でスリリングさが味わえるのも悪くない。

展開とテンポが絶妙!今後に期待大のクライムサスペンス

セリフ回しやカット割、状況描写の流れなど、あらゆる面で独特なテイストとテンポを醸し出している本作。基本的には主人公と因縁の相手を中心にしてストーリーが進んでいくのだが、その過程には誰が味方で敵かということがどこか曖昧に描かれ、因縁の相手が属しているであろう組織の目的も今のところ不明瞭。そのため物語がどこに向かってゆくのか読めず、ワクワクさせてくれる。

ただそのヒントは第1話で大良が追っている男が発した、人類に向けて進化の停滞を憂いたセリフや1巻カバーに引用されている聖書の一節、そして作品のタイトル自体に何かしら暗示されていると、現時点では考えられる。考察好きにもたまらない作風と言えるかもしれない。

まだまだ物語は始まったばかりだが、作風&スピード感的には息もつかせぬ展開が待ち受けていると想像できる。2022年1月に第2巻の発売を控えている今、早めに追いついておくのはいかがだろうか。大良の持つ特技、彼が追う人物や属する組織の思想、そして格差社会が混じり合った物語は、一体何をどう魅せてくれるのだろうか。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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