文明崩壊後の近未来、日本は「大和」「武凰」「聖夷」の三国が覇権を争う戦乱の世にあった。三角青輝は、「大和」の田舎・愛媛郡で若くして司農官を務める“頭カッチカチの屁理屈男”。物知りで弁が立つ青輝に幼い頃から一目置く妻の小紀は、そんな彼の博識ぶりに日本再統一の夢を口にする。「儂は小紀とこのまま普通に暮らせればええ」。意に介さない青輝だったが、「大和」を牛耳る内務卿の平殿器が愛媛郡に現れたことで、その運命は一変した……。
中国の三国時代を記した歴史書から発展し、群雄割拠の興亡史としていまや創作でもお馴染みとなった『三国志』。横山光輝の漫画やコーエーテクモゲームスの歴史シミュレーションゲームなどを筆頭に、日本のサブカルチャーにおいても長きにわたり親しまれている題材だ。『日本三國』はそんな『三国志』的世界を、我々がいまいる現在の延長線上にして、国家が滅亡し“三国時代”にあるという設定の近未来日本に置き換え描くSF大河ドラマとなる。
冒頭から圧巻だ。近未来日本が“三国時代”の始まりに至るまでの過程を、ものの数ページで説明し一気に引き込んでくる。情報量の多さにも関わらずテンポがよく分かりやすいのは、舞台設定を相当に練り込んでいるからだろう。巻末の年表からもそれがうかがえる。
第1話の衝撃のまま読み進めるべき作品だけに、ストーリーのネタバレは冒頭までに留めるが、何といっても面白いのは“後に奇才軍師と評される”主人公・三角青輝の立ち回りだ。「合理的かどうか」だけに判断の基準を置く彼が、高ぶる激情を理性で制御し、自分が成すべきことを冷静に見定める姿には背筋がゾクゾクするような興奮を覚える。
戦乱を描く物語において、花形となるのはどうしても武力に秀でた者だ。しかし一方で、武勲を立てる手段は決してそれだけではない。青輝はこれから、それを証明していくのだ。
青輝が頭脳と言葉を武器にする理詰めの主人公だけに、情報量・文字量の多い作品で一見では取っつきにくさもあるかもしれないが、いざ一読してみれば彼の思考と弁舌に魅了されてしまうこと請け合い。シリアスな空気に、ふとシュールな笑いが入る場面もあり、そこが登場人物たちへの親しみやすさも感じさせる。第1巻は「いよいよこれから」で幕を閉じるが、間もなく7月に第2巻が発売される。ぜひこのタイミングで薦めたい一作だ。
アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。マンガ担当の書店員、ライトノベルの編集者、アニメショップ情報誌の編集ライターなどを経て独立。ほか執筆媒体に「アニメ!アニメ!」など。ご意見・ご感想などお気軽にお寄せください。